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ある筋からの情報で、俺とリィンは帝国の辺境の地にひっそりと建っている施設へと侵入していた。
警備は頑丈だが、俺やリィンの敵ではないなと思いつつ、奥へと進む。奥へと奥へと進むごとに警備もセキュリティも頑丈になっていくがなんてことはないな、この程度。
結社が絡んでいるのかどうかは知らねぇが、見たこともある人形兵器もいた。
まぁ、人形兵器がいたところで、奴ら結社が絡んでいるかどうかなんて、わからないがな。
一番奥の部屋のセキュリティを解除し、その部屋の中へと入ると、機械に繋がれている小さな子供が一人ぽつんと座っていた。
「……だれ?」
その機械を外してやると、俺の方をじーっと見る。
首を傾けて言うその仕草やその子供の姿を見て俺は驚く。
その仕草もだが、姿も、リィンの覚醒時のあの姿によく似ているからだ。
「どうかしたのか、クロウ?」
後から来たリィンが首を傾けながらやってきて、何だこいつらかわいすぎだろうって思ったのは、きっと俺のせいではない。
俺は目の前にいる子供に目線をやると、リィンも子供のほうを見る。
「……え?」
リィンもかなり驚いている。
子供の方は首を傾けたまま、俺達二人を見ていた。
「かわいいな、お前」
その子供を撫でて抱きしめてやると、その子供はびくっ、と震えた。
おそらく今まで、このように撫でられたり、抱き締められたことがないのだろう。
改めて子供を見る。本当にリィンにそっくりで、かわいい。
「お前にそっくりだが、いつ産んだんだ?」
「いや、俺男だからな? 俺生めないからな?」
リィンは苦笑する。
子供は俺達二人を交互に見ていた。
「…………パパ? ママ?」
「え?」
「は?」
パパとママと呼ばれ、俺達は同時に固まってしまう。
パパと言いながら俺に抱き着いてきたその子供を見て、リィンにジト目で睨まれてしまう。
「クロウの方こそ、身に覚えは?」
「ない! ないからな!? それにお前のほうが可能性あるだろうが。このガキお前にそっくり過ぎだぞ」
「俺だってないよ」
このままでは埒が明かないと思い、辺りを調べる。
俺は端末を起動し、リィンは周りに散らばった資料を見る。
端末から出てきたのは、俺達二人のデータとこの子供のデータ。
どうやら、この子供は俺達の遺伝子を掛け合わせて作られたレプリカらしい。しかもこの世に生み出されたその日から今までずっと実験動物扱いされていたようだ。
それを知って殺意を覚えたが、まずはリィンのデータとこの子供のデータを削除するか。
俺のデータは敢えて残す。リィンが知ったら、どう思うだろうな。
端末の電源を落とし、子供のほうを見ると、リィンがこちらをジト目で睨んでいた。これは、バレてるな。
「クロウ、自分のデータは消さなかっただろう?」
「このガキの安全のためだ」
「クロウに危険が及ぶじゃないか」
「データさえありゃ俺自身にそこまで執着しないだろ。お前のデータまで残してたら、二人目三人目のレプリカ作られちまうと流石に保護して引き取るのも難しくなるしな。俺のだけ残しときゃ問題ねえだろ」
「でも、さ……」
心配症だな、ホント。
俺のことなんて、心配しなくてもいいのにな。
「だったら俺のデータを残しておけばよかっただろう?」
「お前のデータだとお前の『鬼の力』の情報とかもあるんだぞ? 俺のクローンならただの俺の劣化コピーにしかならねえけど、お前のデータ残して鬼の力の部分だけ悪用されたりしたらまずいだろ」
そう言うとリィンは悲しそうに俯く。
んな顔させたいわけじゃないんだがな。
リィンを抱き寄せ、頭を撫でる。その様子をじーっと見てるその子供を見る。
「お前も撫でられたいのか?」
おいでおいでと手招きしてやると、少し戸惑った感じはしたが、とことこと歩いて近寄ってきた。
「素直な俺様に似て良い子だな」
その子供を撫でながら言うとリィンがジト目でこちらを見ていた。
「素直……誰が?」
「俺は素直で正直だぜ?」
「そうか?」
苦笑しながらリィンにキスを落とす。
その様子を子供がじーっと見ていた。俺は苦笑して、子供のほっぺにもキスをしてやる。
「うぉ、やわらかっ……」
思った以上に子供のほっぺが柔らかくて、くすぐったそうにしている子供のそのほっぺを堪能してしまう。そんな俺をジト目で見ているリィンに気付き、ギクリとする。
「ママにもちゅーしてもらいたいか? もらいたいよな?」
ここはこの子供に託そう。
子供はリィンを見つめた後、コクリと頷いた。
「え……」
リィンは躊躇うが、子供がリィンの服を引っ張って強請っている。
「俺も俺も」
子供に真似て俺も強請って甘えてみるが、俺は殴られ肩を落とす。
俺にはキスをしなかったリィンだが、子供にはキスをして、子供が嬉しそうだからいいかと思ってしまう。
俺が肩を落としていると、子供が恐る恐る俺の頭を撫でてきた。
「お前はいい子だなあ」
お返しに抱きしめてやり、撫でてやる。
首を傾け、不思議そうにこちらを見ている。
「この子どうするんだ?」
「こんな所に残しても行けねぇだろ。それに、ここに残しててもこいつにとっていいことはないだろう。とりあえず今日はうちへ連れて帰る」
「分かった」
こんな所に残しておけば、実験動物扱いのまま一生を過ごすことになってしまうだろう。そんなこと、誰がさせるかよ。
俺は子供を抱き上げる。抱き上げられた子供は首を傾げる。
「お前も俺達といたいだろ?」
こちらをじーって見ていた子供はこくりと頷く。
俺は子供に微笑みかける。
「名前と、書類つくんねぇとな」
「名前か……」
「ないとかわいそうだろ? いつまでもガキガキ呼ぶわけにもいかねえしな」
抱えた子供を撫でてやるとくすぐったそうにしている。
「そうだな。資料やデータを見る限り、名前はなさそうだしな」
「どんな名前がいいかな、俺とお前の子供の名前」
撫でられくすぐったそうにしている子供の脇をこしょこしょっとくすぐると、それから逃れようと暴れる。
「おいおい、危ないから暴れんなって」
くすぐるのを止め、子供を抱き締め、落ち着かせようと頭を撫でてやる。
「クロウが悪いと思うんだが?」
「へいへい、俺のせいですよ」
ジト目でこちらを見ているリィンに俺は肩を落とす。
「けど、ガキなんか笑うのが仕事みたいなもんだろ」
肩を落とす俺を首を傾げながら見ている。
そんな子供に微笑みかける。しばらくこちらをじっと見ていた子供は少し笑った。
「おしっ、いい笑顔だ」
少し笑った子供の頭を少し乱暴に撫で回し、考えていた名前で呼んでやる。
「……クーリオ」
呼ばれた子供はきょとんとしている。
「クーリオ?」
「どうだ? なぁリィンもどう思う? クーリオ」
「クーリオか」
リィンは子供のほうを見て、頷く。
「いいんじゃないか?」
リィンは子供を──クーリオを撫でている。
クーリオはリィンに撫でられて嬉しそうだ。
「よし、お前は今からクーリオ、な。クールな男になれよー」
「くーる?」
聞いたことないんだろうな。
生み出されてずっとこんな所に閉じ込められて、実験動物扱いされていたからな。
「最高にかっこいいってことだ」
「かっこいい?」
首を傾けているクーリオに笑う。
「おう! 俺様みたいな、な」
「……パパみたいな?」
その答えに、俺は言葉を濁す。
リィンは息を吐いてる。やれやれとでも思っているのだろうか。
「ママはパパはかっこよくないって思ってるらしいぞ」
「……ママはやめろって」
クーリオがじーっとリィンを見ている。
「ママ?」
「な、ママ?」
首を傾けながらいうクーリオを見て、俺がそういうとリィンは項垂れてた。
リィンもクーリオには負けるらしい。
俺は笑みを浮かべると、クーリオの脇を持ってリィンの前に差し出す。
「ほら、リオもママのことが好きだって」
「ママ?」
首傾けながらリィンをじーっと見ているクーリオを恐る恐る受け取ったリィンは、クーリオの頭を撫でる。リィンに撫でられたクーリオは嬉しそうにしている。
あぁ、こいつら可愛すぎだろう。
俺はそんな二人を見守る。
リィンはさっきよりもクーリオを強く抱き締め、クーリオもリィンの服をその小さな手で強く握りしめて、甘えているように見える。
どっからどう見てもリィン、母親だろう。今も頭を撫でてクーリオのほっぺにキスしてるしなあ。
「あ……」
俺の視線に気づいたのか、リィンはこちらを見て顔を真っ赤にしていた。
「おまえら可愛すぎんだろ」
二人まとめて抱き締める。
愛しすぎて泣きそうだ。
「ク、クロウ!?」
「パパ?」
「あー、くそっ……可愛い」
更に二人を抱き締める。
クーリオは首を傾け、リィンが慌てている。
「ちょ…離せって!」
リィンに怒られた。
「パパ?」
「パパのことは放っておけばいいからな?」
そういうとリィンは先に行こうとする。
まぁ、いつまでもこんな所にいるよりは、さっさとこの施設から脱出した方がいいだろう。
俺が悲しそうな顔のまま、二人の後をついていってると、クーリオが心配そうにこちらを見ていた。
心配させたくなくて、クーリオに大丈夫と意味を込めて笑う。
「パパ、大丈夫?」
聞いてくるクーリオに頷いて答える。
そう答えると微笑むクーリオ。お前にはそうやって笑顔でいて欲しい。
クーリオがリィンにおろしてもらったかと思ったら、俺のほうに駆け寄ってきた。
「パパ」
強く抱きついてくるクーリオを抱き上げると、甘えてくる。
本当に愛おしい。
クーリオを撫でながらリィンの方を見つめる。なんだよという顔をされたが、やがてこちらの方に近づき、抱きついてくる。それに対して、俺もリィンを抱き締める。
「愛してる」
耳元で囁いて更に強く抱き締めれば、リィンは顔を真っ赤にしながらも、俺もと答えてくれる。そんなリィンをずっと抱きしめていると、じーっとこちらを見ていたクーリオも真似て抱きしめてくる。
隠して停めていた小型飛空艇に乗り込み、家へと向かう。
その間、クーリオは俺やリィンからは離れようとはせず、俺達の後ろに隠れてびくびくしていた。俺達二人のことは怖くないらしいが、他人は怖いらしい。
サイト掲載日 [2015年5月5日]
© 2015 唯菜
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