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Prelude
リィンの元に、その人物が訪ねてきたのは、家族が寝静まった夜も更けた時間だった。
リィンは驚かずにその人物を窓から部屋の中へと招き入れる。
「クロウ!」
リィンは嬉しそうにクロウと呼んだその人物に抱きついた。
「リィン、寂しかったか?」
「当たり前」
クロウは自分の問いに即答えたリィンに満足したのか、強く抱きしめその唇に己の唇を重ねた。
「ふっ…ん、ぁ……」
今まで離れていた分を補うかのようにお互いに求め合うが、夜も更けた時間だとはいえ、いつ家族が起きてくるかわからないため、名残惜しそうに唇は離れていった。
それに少し寂しそうにしていたリィンにクロウは苦笑する。
「そんなに寂しそうにするな。どうせあと少ししたら、毎日のように会えるようになるんだ。それまでは我慢、な?」
「うん、そうだな。後もう少しで入学式……。Ⅶ組、だっけ? 今年度、から…だよな? 去年クロウを含めた数人が携わって発足したクラス、か──」
「あぁ。他のクラスに比べてかなり特殊なクラスになるだろうが……なんたって“訳アリ”のクラス、だからなぁ。まぁ、お前なら問題ないだろうな」
そう言いながら、軽い口付けを落とす。
「リィン、言っておくが──あまりトラブルに巻き込まれるなよ?」
「好きでトラブルに巻き込まれてるわけじゃないんだけど……」
「そうは言ってもなぁ…お前今まで何回トラブルに巻き込まれたと──」
そう言われ、反論できないのが悲しいところである。
ガクリとうなだれてしまったリィンをクロウは抱き寄せる。抱き寄せられたリィンもそれに応えるかのようにクロウの背中に手を回した。
「もっと一緒にいたいよ、クロウ……」
「あぁ、俺もだ」
二人はお互いを強く抱きしめ合った。
「さて、名残惜しいが、そろそろ帰んないとな……。だからそんな顔すんなって。次は学院でな、リィン? ──愛してる」
寂しそうにするリィンに深い口付けを交わした後、クロウは訪ねてきた時と同じように窓から出て行った。クロウの姿はあっという間に見えなくなっていったが、リィンはしばらくその窓から外を眺めていたが、そろそろ寝ないと朝がきついだろうと思い、寝床についた。
それから数日後、リィンは赤い制服を身に纏い、トリスタ駅に降り立った。今日はこのトリスタにあるトールズ士官学院の入学式なのだ。
駅から出ると、公園にはライノの花が咲き乱れている。それに見惚れていたら後ろから歩いてきた少女とぶつかってしまい、リィンはぶつかって尻餅をついていた少女に手を差し伸べた。
「ごめん、大丈夫か?」
彼女の制服も自分と同じ赤で、同じクラスだろうと容易に想像できた。
一言二言交わし、彼女とは別れた。
途中で数人同じ制服を着ている生徒を見て、校門に着いたところで自分の得物である太刀を渡して講堂の方へと向かった。
その後、旧校舎へと移動し、特別オリエンテーリングとして地下へと落とされ、ハプニングにも遭遇し、リィンは俺ってやっぱりトラブル体質なんだなぁと実感しつつ、クロウに釘を差されたのにトラブル起こしてゴメンと謝りつつ、何とか特別オリエンテーリングも終了し、Ⅶ組は全員参加ということで無事──とは言いがたいが──、発足された。
(そもそも俺には、拒否をする理由がない。それに、クロウが関わったんだから……断ることなんか……)
そして、徐々に学院生活にも慣れてきた頃──。
「よ、後輩君」
「!!」
サラに頼まれ、生徒会室がある学生会館に入ろうとした時、聞き慣れた声が聞こえた。
勢い良く振り返ると、そこには会いたくて仕方がなかった人物が近付いてきていた。
「ご勤めゴクローさん。調子の方はどうよ? ……なんてな?」
その人物──クロウは意地悪そうに、ニヤつかせた笑みをし、リィンの前で立ち止まった。
「どうだ? そろそろ慣れてきたか?」
「まだ大変だけど、今は何とかやってる状況、かな。授業やカリキュラムが本格化したら目が回りそうな気がするけど」
「特にお前さんたちは色々とてんこ盛りだろうからなー。ま、せいぜい肩の荷を抜くんだな」
そう言いながら、クロウはリィンの頭を乱暴に撫でた。
「わっ! クロウ!?」
「クク…ああ、そうだ。今はまだ先輩って付けておけよ? 別に二人っきりの時はいつも通りでいいんだが、さすがにまだ会って間もない先輩と後輩が名前で呼び合っているというのは、可怪しいだろう? っていうか、まだ俺はお前に名前を教えてないがな」
真面目な顔でクロウは耳打ちをする。
リィンはそれに少し寂しい感じがしたが、それもそうかと思い、素直に頷いた。
「少し寂しい思いをさせるだろうが、我慢してくれ」
そういうと、クロウはリィンから離れる。
「お近付きの印に、面白い手品を見せてやるよ。ちょいと50ミラコインを貸してくれねぇか?」
リィンはポケットを探り、50ミラコインをクロウに渡した。
渡すとクロウは50ミラコインを宙に投げ、両腕を空へ突き出し開いていた手をグッと強く握り、どちらに50ミラコインが入っているか聞いてきた。
「えっと……右?」
リィンがそう答えると、右を開いてみせたが50ミラコインはなかったが、左にも入ってなくて、リィンはまたやられたという顔をした。
「フフン、まあその調子で精進しろってことだ。そうそう。生徒会室なら2階の奥だぜ。そんじゃ、良い週末を。──後で連絡する」
クロウはウィンクしながら、去っていった。
リィンはクロウが去ってから、50ミラコインのことを思い出した。
「あ、50ミラ……」
またやられたとか思いつつ、その後生徒会室で手帳を受け取り、トワから生徒会の手伝いについて聞かされた時には驚いたが、トワの顔を見てたら断るの事はできず、承諾するしかなかった。
結局、その後トワに夕食をごちそうになり、外にでると、すでに暗くなっていた。
外に出るとタイミングよくサラから連絡が入り、鋭い事も言われ、ひとまずは頑張ってみるかと決心した。
それから寮に戻り、生徒手帳を各自に渡し、自室に戻り予復習していると、通信が入ってきた。それはクロウからで、リィンは寮をそっと抜け出し、クロウの元へと急いだ。
クロウは第3学生寮を出てすぐの少し影になっている壁に寄りかかって待っていた。
クロウはリィンが出てきたのを見ると顎で合図をし、移動した。リィンもクロウの後を追って移動する。
街から出たところでクロウはリィンは手首を捕え、強い力で引き寄せたかと思うとすぐに、リィンの唇にクロウの唇が重なる。会えなかった期間を埋めるかのように、最初は軽めの口付けだったものが、徐々に深くなり、二人はお互い貪り合った。
「もう少し早く会うつもりだったんだが、遅くなっちまったな……」
「でも、こうして会えてるから、俺は嬉しいよ?」
「可愛いこと言ってくれるじゃねぇか」
クロウは満足そうに笑みを浮かべ、リィンの髪を愛おしそうに指で梳かし、キスを落とした後、いくら4月とはいえ、まだ夜は寒いだろうと思い、リィンを寒さから守るように抱き締めると、リィンもそれに答えるかのようにクロウの背に腕を回した。
「それで、Ⅶ組の方はどんな感じだ?」
「これからの事を考えると、なんか大変そうな気がするよ……。旧校舎の時より、ユーシスとマキアスの仲が更に悪くなっていってて……」
旧校舎での出来事や、この二週間での事を思い出し、ため息を吐いた。
「あぁ、ユーシス・アルバレアとマキアス・レーグニッツ、か。アルバレアは帝国東部を治める四大名門の一つで、レーグニッツは…あの男に一番近い奴の……──」
あの男と言った瞬間、クロウの纏っている雰囲気が変わり、抱き締められすぐ間近で感じているリィンは息を飲む。この状態のクロウを見るのは初めてではないにしろ、やはり怖いと感じてしまい、リィンはクロウの服を引っ張る。
「あ、あぁ…わりぃ……」
そんなリィンを見てクロウは元の雰囲気に戻し、リィンをさらに強く抱き締めた。すぐ元の状態に戻ったクロウにリィンは安堵し、腰に回していた腕に力を込める。クロウはやっちまったと思いながら、リィンの頭を撫でた。
「わりぃ、普段は考えないようにしてるんだがな……」
リィンの頭を撫でた後、クロウはリィンの髪に顔を埋める。
クロウはリィンが完全に安心するまでそうしていた。自分の心を落ち着かせるためでもあったが──。
しばらくして、吐息を着いてクロウは顔を上げる。リィンが心配そうにこっちを見ているのを見て優しく笑った後、唇に触れるだけのキスを落とした。
「もう大丈夫だ。悪かったな」
リィンは頭を振る。
「まだ何か気になることはあったか?」
しばらく考えてたリィンは、生徒会室に行く前に立ち寄った旧校舎での出来事を思い出し、それを告げる。
「旧校舎、ねぇ……」
「やっぱりあの力と何か関係ある?」
「それはまだなんとも言えないが……まぁ、今はお前さんの好きにすればいいさ。どうせ明日の自由行動日からトワの手伝いをするんだろう? サラのだまし討ち喰らったもんな?」
「やっぱり知ってたんだ。わざわざ生徒会室の場所教えてくれるし……」
「まぁなー」
「サラ教官に、なんで俺なんですかって聞いたら、クラスの重心とでも言えるからって言われたよ。たしかに俺の存在はある意味特別なんだろうけどさ……」
少し暗い表情になったリィンを、クロウは大丈夫だと意味を込めて頭を撫でる。
「とりあえず、頑張ってみるよ」
「頑張るのはいいが、自分のことを疎かにはするなよ? お前、自分より他人優先しちまうからな。それに加えてトラブル体質だからな」
そう言われ、リィンは何も言えずにクロウの肩に顔を埋める。
クロウはそんなリィンの頭を乱暴にかき回す。
「少しは自分を優先しろよ? お前に何かあったら──」
「うん、わかってる。でも、ごめん……」
「なんで謝るんだか……まぁ、本当に気をつけろよ?」
リィンは黙って頷く。
心配させている自覚はあるものの、自分の性格上考えるよりも先に助けてしまうことも多く、それによって危険な目にあいかけたことも今までに何度もあった。毎回クロウを心配させてしまうことも分かっていながら、中々直せずにいた。
クロウもそれが分かっているのか、心配ではあるものの、リィンの生い立ちや育ってきた環境などで自分優先より他人優先になってしまっていると理解はしていた。
ただ、リィンの命を脅かす者は、徹底的に排除してやろうと、内心思ってるのはリィンには内緒にしている。──恐らく気づかれているだろうとは予測しているが。
「さて、そろそろ寮に戻るか。今度はいつでも会えるしな」
「うん、分かった。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
お互いの唇を重ねた後、リィンはクロウから離れ、第3学生寮へと戻っていった。その後、しばらくしてクロウも自分の寮へと戻った。
後日、クロウはリィンから、寮に戻り、怪しまれないように飲み物を入れて部屋に戻ろうとしたら、酔っ払ったサラと鉢合わせて絡まれて大変だったと聞いて、本当にトラブル体質だなと思ったのは、内緒だ──。
リィンの元に、その人物が訪ねてきたのは、家族が寝静まった夜も更けた時間だった。
リィンは驚かずにその人物を窓から部屋の中へと招き入れる。
「クロウ!」
リィンは嬉しそうにクロウと呼んだその人物に抱きついた。
「リィン、寂しかったか?」
「当たり前」
クロウは自分の問いに即答えたリィンに満足したのか、強く抱きしめその唇に己の唇を重ねた。
「ふっ…ん、ぁ……」
今まで離れていた分を補うかのようにお互いに求め合うが、夜も更けた時間だとはいえ、いつ家族が起きてくるかわからないため、名残惜しそうに唇は離れていった。
それに少し寂しそうにしていたリィンにクロウは苦笑する。
「そんなに寂しそうにするな。どうせあと少ししたら、毎日のように会えるようになるんだ。それまでは我慢、な?」
「うん、そうだな。後もう少しで入学式……。Ⅶ組、だっけ? 今年度、から…だよな? 去年クロウを含めた数人が携わって発足したクラス、か──」
「あぁ。他のクラスに比べてかなり特殊なクラスになるだろうが……なんたって“訳アリ”のクラス、だからなぁ。まぁ、お前なら問題ないだろうな」
そう言いながら、軽い口付けを落とす。
「リィン、言っておくが──あまりトラブルに巻き込まれるなよ?」
「好きでトラブルに巻き込まれてるわけじゃないんだけど……」
「そうは言ってもなぁ…お前今まで何回トラブルに巻き込まれたと──」
そう言われ、反論できないのが悲しいところである。
ガクリとうなだれてしまったリィンをクロウは抱き寄せる。抱き寄せられたリィンもそれに応えるかのようにクロウの背中に手を回した。
「もっと一緒にいたいよ、クロウ……」
「あぁ、俺もだ」
二人はお互いを強く抱きしめ合った。
「さて、名残惜しいが、そろそろ帰んないとな……。だからそんな顔すんなって。次は学院でな、リィン? ──愛してる」
寂しそうにするリィンに深い口付けを交わした後、クロウは訪ねてきた時と同じように窓から出て行った。クロウの姿はあっという間に見えなくなっていったが、リィンはしばらくその窓から外を眺めていたが、そろそろ寝ないと朝がきついだろうと思い、寝床についた。
それから数日後、リィンは赤い制服を身に纏い、トリスタ駅に降り立った。今日はこのトリスタにあるトールズ士官学院の入学式なのだ。
駅から出ると、公園にはライノの花が咲き乱れている。それに見惚れていたら後ろから歩いてきた少女とぶつかってしまい、リィンはぶつかって尻餅をついていた少女に手を差し伸べた。
「ごめん、大丈夫か?」
彼女の制服も自分と同じ赤で、同じクラスだろうと容易に想像できた。
一言二言交わし、彼女とは別れた。
途中で数人同じ制服を着ている生徒を見て、校門に着いたところで自分の得物である太刀を渡して講堂の方へと向かった。
その後、旧校舎へと移動し、特別オリエンテーリングとして地下へと落とされ、ハプニングにも遭遇し、リィンは俺ってやっぱりトラブル体質なんだなぁと実感しつつ、クロウに釘を差されたのにトラブル起こしてゴメンと謝りつつ、何とか特別オリエンテーリングも終了し、Ⅶ組は全員参加ということで無事──とは言いがたいが──、発足された。
(そもそも俺には、拒否をする理由がない。それに、クロウが関わったんだから……断ることなんか……)
そして、徐々に学院生活にも慣れてきた頃──。
「よ、後輩君」
「!!」
サラに頼まれ、生徒会室がある学生会館に入ろうとした時、聞き慣れた声が聞こえた。
勢い良く振り返ると、そこには会いたくて仕方がなかった人物が近付いてきていた。
「ご勤めゴクローさん。調子の方はどうよ? ……なんてな?」
その人物──クロウは意地悪そうに、ニヤつかせた笑みをし、リィンの前で立ち止まった。
「どうだ? そろそろ慣れてきたか?」
「まだ大変だけど、今は何とかやってる状況、かな。授業やカリキュラムが本格化したら目が回りそうな気がするけど」
「特にお前さんたちは色々とてんこ盛りだろうからなー。ま、せいぜい肩の荷を抜くんだな」
そう言いながら、クロウはリィンの頭を乱暴に撫でた。
「わっ! クロウ!?」
「クク…ああ、そうだ。今はまだ先輩って付けておけよ? 別に二人っきりの時はいつも通りでいいんだが、さすがにまだ会って間もない先輩と後輩が名前で呼び合っているというのは、可怪しいだろう? っていうか、まだ俺はお前に名前を教えてないがな」
真面目な顔でクロウは耳打ちをする。
リィンはそれに少し寂しい感じがしたが、それもそうかと思い、素直に頷いた。
「少し寂しい思いをさせるだろうが、我慢してくれ」
そういうと、クロウはリィンから離れる。
「お近付きの印に、面白い手品を見せてやるよ。ちょいと50ミラコインを貸してくれねぇか?」
リィンはポケットを探り、50ミラコインをクロウに渡した。
渡すとクロウは50ミラコインを宙に投げ、両腕を空へ突き出し開いていた手をグッと強く握り、どちらに50ミラコインが入っているか聞いてきた。
「えっと……右?」
リィンがそう答えると、右を開いてみせたが50ミラコインはなかったが、左にも入ってなくて、リィンはまたやられたという顔をした。
「フフン、まあその調子で精進しろってことだ。そうそう。生徒会室なら2階の奥だぜ。そんじゃ、良い週末を。──後で連絡する」
クロウはウィンクしながら、去っていった。
リィンはクロウが去ってから、50ミラコインのことを思い出した。
「あ、50ミラ……」
またやられたとか思いつつ、その後生徒会室で手帳を受け取り、トワから生徒会の手伝いについて聞かされた時には驚いたが、トワの顔を見てたら断るの事はできず、承諾するしかなかった。
結局、その後トワに夕食をごちそうになり、外にでると、すでに暗くなっていた。
外に出るとタイミングよくサラから連絡が入り、鋭い事も言われ、ひとまずは頑張ってみるかと決心した。
それから寮に戻り、生徒手帳を各自に渡し、自室に戻り予復習していると、通信が入ってきた。それはクロウからで、リィンは寮をそっと抜け出し、クロウの元へと急いだ。
クロウは第3学生寮を出てすぐの少し影になっている壁に寄りかかって待っていた。
クロウはリィンが出てきたのを見ると顎で合図をし、移動した。リィンもクロウの後を追って移動する。
街から出たところでクロウはリィンは手首を捕え、強い力で引き寄せたかと思うとすぐに、リィンの唇にクロウの唇が重なる。会えなかった期間を埋めるかのように、最初は軽めの口付けだったものが、徐々に深くなり、二人はお互い貪り合った。
「もう少し早く会うつもりだったんだが、遅くなっちまったな……」
「でも、こうして会えてるから、俺は嬉しいよ?」
「可愛いこと言ってくれるじゃねぇか」
クロウは満足そうに笑みを浮かべ、リィンの髪を愛おしそうに指で梳かし、キスを落とした後、いくら4月とはいえ、まだ夜は寒いだろうと思い、リィンを寒さから守るように抱き締めると、リィンもそれに答えるかのようにクロウの背に腕を回した。
「それで、Ⅶ組の方はどんな感じだ?」
「これからの事を考えると、なんか大変そうな気がするよ……。旧校舎の時より、ユーシスとマキアスの仲が更に悪くなっていってて……」
旧校舎での出来事や、この二週間での事を思い出し、ため息を吐いた。
「あぁ、ユーシス・アルバレアとマキアス・レーグニッツ、か。アルバレアは帝国東部を治める四大名門の一つで、レーグニッツは…あの男に一番近い奴の……──」
あの男と言った瞬間、クロウの纏っている雰囲気が変わり、抱き締められすぐ間近で感じているリィンは息を飲む。この状態のクロウを見るのは初めてではないにしろ、やはり怖いと感じてしまい、リィンはクロウの服を引っ張る。
「あ、あぁ…わりぃ……」
そんなリィンを見てクロウは元の雰囲気に戻し、リィンをさらに強く抱き締めた。すぐ元の状態に戻ったクロウにリィンは安堵し、腰に回していた腕に力を込める。クロウはやっちまったと思いながら、リィンの頭を撫でた。
「わりぃ、普段は考えないようにしてるんだがな……」
リィンの頭を撫でた後、クロウはリィンの髪に顔を埋める。
クロウはリィンが完全に安心するまでそうしていた。自分の心を落ち着かせるためでもあったが──。
しばらくして、吐息を着いてクロウは顔を上げる。リィンが心配そうにこっちを見ているのを見て優しく笑った後、唇に触れるだけのキスを落とした。
「もう大丈夫だ。悪かったな」
リィンは頭を振る。
「まだ何か気になることはあったか?」
しばらく考えてたリィンは、生徒会室に行く前に立ち寄った旧校舎での出来事を思い出し、それを告げる。
「旧校舎、ねぇ……」
「やっぱりあの力と何か関係ある?」
「それはまだなんとも言えないが……まぁ、今はお前さんの好きにすればいいさ。どうせ明日の自由行動日からトワの手伝いをするんだろう? サラのだまし討ち喰らったもんな?」
「やっぱり知ってたんだ。わざわざ生徒会室の場所教えてくれるし……」
「まぁなー」
「サラ教官に、なんで俺なんですかって聞いたら、クラスの重心とでも言えるからって言われたよ。たしかに俺の存在はある意味特別なんだろうけどさ……」
少し暗い表情になったリィンを、クロウは大丈夫だと意味を込めて頭を撫でる。
「とりあえず、頑張ってみるよ」
「頑張るのはいいが、自分のことを疎かにはするなよ? お前、自分より他人優先しちまうからな。それに加えてトラブル体質だからな」
そう言われ、リィンは何も言えずにクロウの肩に顔を埋める。
クロウはそんなリィンの頭を乱暴にかき回す。
「少しは自分を優先しろよ? お前に何かあったら──」
「うん、わかってる。でも、ごめん……」
「なんで謝るんだか……まぁ、本当に気をつけろよ?」
リィンは黙って頷く。
心配させている自覚はあるものの、自分の性格上考えるよりも先に助けてしまうことも多く、それによって危険な目にあいかけたことも今までに何度もあった。毎回クロウを心配させてしまうことも分かっていながら、中々直せずにいた。
クロウもそれが分かっているのか、心配ではあるものの、リィンの生い立ちや育ってきた環境などで自分優先より他人優先になってしまっていると理解はしていた。
ただ、リィンの命を脅かす者は、徹底的に排除してやろうと、内心思ってるのはリィンには内緒にしている。──恐らく気づかれているだろうとは予測しているが。
「さて、そろそろ寮に戻るか。今度はいつでも会えるしな」
「うん、分かった。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
お互いの唇を重ねた後、リィンはクロウから離れ、第3学生寮へと戻っていった。その後、しばらくしてクロウも自分の寮へと戻った。
後日、クロウはリィンから、寮に戻り、怪しまれないように飲み物を入れて部屋に戻ろうとしたら、酔っ払ったサラと鉢合わせて絡まれて大変だったと聞いて、本当にトラブル体質だなと思ったのは、内緒だ──。
pixiv [2014年2月4日]
© 2014 唯菜
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