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(閃Ⅲの設定が出る前)

風が冷たい季節だった。
帝国の寂れた田舎町、日が暮れて人が帰宅した家に明かりが点く時間帯。人通りがない路地裏を、派手な服を纏った長身の男が歩いていた。二色の髪色、細めの眼鏡、赤い衣装は田舎町には溶け込めていない。だが本人は気にした様子もなく退屈そうな顔で歩いている。

風で流れてきた新聞紙が青年の足に引っかかった。なにげに新聞へと向けた彼の視線の先には大きな見出しが躍っている。『灰の騎士、失踪』と。

どういった経緯で失踪したのか男には興味はなかった。ただ自分に情報を提供してきた魔女が、育てればいい死闘相手になると進めてきた所為だ。丁度手が空いていたし、寝るだけも飽きたから、気まぐれに行動してみた。

新聞紙がまた風で流されていく。耳障りな音が遠ざかる。建物の陰に人が倒れていた。白かっただろう服は黒く汚れている。強く強く握られている腕の中の剣を見て男は目を細めた。倒れた男から戦意を失った気配はない。最後まで足掻こうとする姿が感じられる。

ふと、前に彼たちと戦った記憶を掘り起こす。まだ粗削りで、自分が本気になれば簡単に死を与えられる連中かと思っていたが、簡単にくたばる所か、足掻いて見せた。その中に彼もいた。『力』の破片を持った彼――リィンが。

英雄と担ぎ上げられた哀れな生贄。帝国が滅びようと男にとってはどうでもいい事だった。だが戦う相手が消えるのは面白くはない。気を失っているリィンを担ぎ上げて男は、その場から消えた。

路地裏には、最初から何もなかったように静寂に包まれている。







森の奥にある隠れ家。人も獣も立ち入ることをしない空間にぽっかりと白い建物は佇んでいる。
マクバーンが与えられた家だった。誰よりも惰眠と戦うことが好きな男が快適に住めるように、ベッドは広く、庭と称した空間は剣を振り回すには十分な広さがある。
完全に気を失っているリィンは目を覚ます様子はない。殺気でも当てたら、すぐに目を覚ますだろうが、寝ている方が面倒がなくてよかった。

リィンを腕に抱えたまま家に入り、マクバーンは自室まで来て止まった。空いている部屋は何か所もあるが、ベッドがあるのは自分が使いているものしかない。そこら辺に放置してもいいが、弱っている人間は簡単に死んでしまう例もある。そう考えると冷たい床に寝かすこともできない。折角拾って来たのだ、このまま鍛えるつもりだった相手が消えるのは残念だと感じる。
 
だからベッドへと向かっていた足を今度は浴室へと向かわせた。自室から浴室は数歩進めばたどり着く。汚れたままのリィンをベッドに投げ込む訳にはいかなかった。一週間に一度は、結社から派遣された連中が掃除や洗濯をしに来るが、それ以外は自分でしなければならない。汚れたままのリィンがベッドのシーツを汚すと、替えるのは紛れもなく自分になる。面倒ごとが増えるのを避けるために、マクバーンは仕方なくリィンの服を剥ぎ、シャワーからお湯を出して洗い出した。

余程深い眠りに落ちているのかリィンは微かに瞼が動くだけで目覚める様子はない。身体には無数の最近できたと思われる傷が複数存在していた。

「ふん、未熟だな」

だがリィンの伸びしろはまだある。早く自分と同じ高みへと昇ってこい。そう思いながら自然と指は優しくリィンの髪を撫でていた。マクバーン自信、自覚のない行為であった。

水音が浴室に響く。十分に汚れを落とし、備え付けのバスタオルでリィンを包むと自室へと戻った。もしここに知り合いでもいたらマクバーンの甲斐甲斐しい姿に驚いただろう。基本、面倒ごとを嫌い、戦うことが好きなだけの性格だと思われているからだ。

自室のベッドは大きく作られており、リィンを寝かせるとマクバーンは気怠そうに欠伸を漏らした。リィンを探すのに時間を取られ、すでに陽が沈み窓から見える月明りだけがぼんやりと世界を照らしている。

自分も寝てしまおう。だがリィンを洗った時にマクバーンも己の服を濡らしていることに気付いた。他の服に着替えるのも面倒だなと、思考が支配する。無造作な服を脱ぎ、部屋に鎮座しているソファへと服と眼鏡を置き、何の躊躇いもなくリィンの隣へと潜り込んだ。人が居ても眠ることに支障はない男は、再度軽く欠伸を漏らすと、リィンを引き寄せて眠りについた。

マクバーン自身、その異常さに気付くこともなく夜はふけていく。そして朝、甲高いに青年の悲鳴で起こされるまで、彼は心地よい眠りへと包まれたのだ。






――リィン視点ーー

逃げたと言われても仕方ない。宰相の手ごまとして、帝国の祭り上げられた『英雄』と扱われて、心が機能しなくなるのは簡単だった。何度か友人にもあったが、学院時代の熱い思いも凍えたように動かなくなっていた。

前へ進めているのだろうか?

そんな疑問が浮かんでは消えていった。そして時間の感覚がなくなった瞬間、リィンは軍から逃げていた。自分でも無意識だった。気づいた知らない場所にいて、何故か帝国軍から追われていた。むしろ彼らはリィンを連れ戻そうとしたのかもしれない。
何か叫んでいる軍人たちを見たが、言葉が表情がリィンの耳にも目にも映らない。ただ心が摩耗しすぎで生きている実感がなかった。ただ呼吸をしているだけ。だが自ら死を選ぶ事はない。こんな己でも泣いて悲しむ人たちがまだいると心の片隅に残っているからだ。
家族や友人、恩師や知り合いたちの顔が浮かんでは消えていく。

ふと、沈んでいた意識が浮上した気がした。暖かい。記憶が途切れた時は冷たい空と大地と人気のない路地裏だった。ゆっくりと目を開けると、ぼやけた視界の中に肌色が見える。覚醒していない頭のまま手を動かしてそこに触れる。暖かい。そしてトクトクと伝わってくる音は鼓動に似ていた。自分の鼓動ではない他人の音。視線を上げると長い髪と整った顔が近くにある事に気付く。

誰だったか……。
見覚えはある。確か……。

「……マクバーン?」

眼鏡と鋭い視線がないだけで違う人物に見えた。寝息が聞こえてくる。熟睡しているらしくリィンが起きた気配にも気づかない。まじまじと相手の顔を見て、ふと自分の身体に違和感を覚えた。マクバーンの手が背中に回り抱きしめている。その手から伝わる体温がやけに生々しい。まるで肌と肌が触れているよに。覚醒しきっていない頭で状況を確認する。薄く大きいブランケットが二人の身体を覆っていた。だが一人用らしく肩は露出し、太ももの辺りからは足が見えている。部屋がほどよく暖かく、マクバーンから伝わってくる熱もある所為か寒くは感じなかった。

やっとそこまで状況を確認して、自分もマクバーンも何も身に着けていない事に気付いた。服だけではなく下着すらも履いていない。

「なな、な、な、何で!! どうして!!」

起き上がろうとしたが、回っているマクバーンの腕が強く、上半身が少し浮いただけで、すぐにベッドへと戻ってしまった。
身体に違和感はないのでただ服を脱がされただけだと信じたい。流石に幼子という歳ではないので、性行為や大人の事情なんて意味は分かるつもりだ。だがそれは自分の身の上に降りかかれば違う。
冷静になろうとするが上手くいかない。自由になると手でマクバーンを起こそうと、厚い胸を叩く。その成果で寝ていたマクバーンの瞳が持ち上がった。開いた瞳の色に心臓が一瞬跳ねた気がする。それがどんな感情なのか今のリィンには分からなかった。

「すまないが、これはどいった状況が説明してもらえないか?」

今更ながら裸で抱き合っている事が恥ずかしくて、頬が熱くなる。マクバーンの腕から逃げ出したいほどの羞恥心が襲ってきた。

「……落ちていたのを拾って俺のものにしただけだが。服と身体が汚れてたので脱がした。煩い、まだ眠いから大人しくしてろ」

相変わらずマクバーンはマイペースという名の強引さでリィンをそう説き伏せる。寝ぼけている所為か、説明が簡単すぎる。唖然とリィンがマクバーンを凝視していたら、何故か更に身体を密着させて眠りについてしまった。

開いていた目は閉じ、もう寝息が聞こえてくる。

――どうすればいいんだ!!

悲鳴を上げそうになった口を閉じ、リィンは面積が増えた肌の感覚に目を回していた。胸や腰、足は絡まされていた。まるで抱き枕あつかいだ。下半身だけは意識しないようにしてリィンは彼が起きるまで耐えた。

この時リィンはある発言を気にしていなかった。気にしていたなら、早くこの腕から逃げただろう。
リィンの所有を主張していたマクバーンに。そして戦い意外は基本的にすぼらな彼についリィンは生活面で構ってしまい絆されることになろうとは、この時は少しも予想していなかった。

サイト掲載日 [2017年6月9日]
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マクリン最高~!!(*´ω`*)
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移転:2017/06/17
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