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見上げるとぽつかりと丸く切れとられた青い空が見えた。
森の中に存在する大きな貴族の別荘を思わせる建物。その裏手に張られたロープにリィンは先ほどまで洗っていた服を干し始める。
「……いい天気だ」
目を細めてリィンは乾いた笑いを上げた。
マクバーンに拾われ一週間。気付いたら何故か家事を始めてしまっていた。基本マクバーンは気まぐれな性格で、戦うか寝るかその二択。その所為で溜まっていく洗濯物や、日々の食事が携帯食など、リィンにとってはあり得ない事だった。だからついつい家事に手を出した。
マクバーンは気まぐれに戦いたい時にリィンを連れ出し、広い庭で戦闘をする。善戦はするが決まってリィンが最後には膝をついてしまう。手加減されているのは、理解できるのだが、彼が本気を出すまでもないと思われているが悔しかった。彼の高見まで上がるにはまだ鍛錬も実戦も足りない。
ここに連れて来られてリィンの日課は鍛錬と家事に追われる日々となった。
洗濯が終わると台所へと移動する。この一週間、気付かない内に食糧庫にある食材は増えていっている。たぶんリィンが気づかない内にマクバーンか、結社の誰かが増やしているのだろう。リィンが居ても食べるには困らないほどの食材があった。
「昼食の準備と、夕食の下ごしらえを終えたら、鍛錬でもするか……」
そう声に出して予定を立てる。独り言を口にしないと、この辺鄙な場所で聞こえてくる音は、風や鳥の鳴き声しかしないので、つい人恋しくなってしまうようだ。
だから鼻歌のように言葉がない音楽を紡ぎながら料理を開始する。まだマクバーンは寝ているから、起きて来るには時間だけたっぷりあった。
コトコトと音を立てている鍋。漂うトマトシチューの匂い。シチューや鍋といった料理は上手く調理できる自信があるので、味見してみれば程よい旨味が口の中に広がった。
「よし、これとサラダとパンで昼食はいいかな。夜は肉に味を染み込ませるために……」
「いい匂いだ」
背後から突然、声が降ってきた。慌てて振り返ると目の前に壁があってリィンはぽかりと口を開けてしう。恐る恐る見上げると見慣れたマクバーンの顔がやけに近くにあった。
よく見れば何故か腰に彼の腕が回っている。いつの間にか捕獲されていた。
「えっと、準備するけど、食べるます、か?」
朝の食事も取らずに寝ていた男だ。腹が空いているだろうとリィンが声を掛けた。いまだ彼との会話はあまりしていないので、どんな口調で話していいのか悩みながら。
ぼんやりとした目を眼鏡越しに覗き込む。
「そうだな……。いい匂いがするから齧ってみるか」
齧ると聞こえてきた単語にリィンは首を傾げた。鍋の中はシチューだ。齧ると表現するにはおかしい。疑問に思いながらマクバーンの様子を伺っていると、顔を近づかせてきて、リィンの首元に齧りついた。
皮膚に軽い痛みと、生温かい感触が襲う。悲鳴にならない声をリィンは上げてしまった。
「な、な、な、なに、あああああ!!」
「いい匂いだか、味は……悪くはないな」
首を齧られ、軽く舐められたと認識してリィンは腰に力が入らないまま、床へと座り込んでしまった。
「シチューも食うからな」
「ああ、えっ。……準備する」
辛うじて乾いた声を上げてリィンは頷いた。颯爽と台所から消えていく男の背中を見送りリィンは激しく目を瞬かせる。
「いい匂いって……俺の事か」
相変わらず行動が読めないマクバーンにリィンは頭を抱えた。背後に立たれた事すら気づかなかったが、それよりも齧られた首の感覚がまだ残っている方が気になって仕方ない。頬が熱い。
なんとなく今の生活は嫌いでもないが、心臓にだけは悪いと思ったリィンだった。
サイト掲載日 [2017年12月21日]
© 2017 しるくさん
しるくさんからのいただきものマクリン第二弾です♪(*´∇`*)
マクリン最高~!!(*´ω`*)
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