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 クロスベルでその存在を知った結社の執行者の一人、No.Ⅰ《劫炎》。
 タワーで初めて対面した時、リィン教官が彼を化物と呼んでいた人物。僕たちが戦った道化師と名乗った執行者も強かったが、リィン教官が戦った彼のほうが強いというのは見て取れた。
 星見の塔でも本気で戦ってたはずの二人が、実は恋人同士だというを知ったのは、それからしばらくしてからだった。
 分校長の思いつきでユミルへ温泉旅行に行った時で、まさかそこに偶然同じように旅行だという結社の執行者たちに出くわした時だった。そこにいた彼らが危険人物だとわかっていたが、何もしないと告げた彼らを一応信用した。
 なにより、一番怖かったのは笑顔のリィン教官だったが──。

 ユミルではずっと劫炎と呼ばれてたあの執行者がリィン教官と一緒に行動していたのを見て、僕たち新Ⅶ組もリィン教官と一緒に──と言うか後をつけるかのように追いかけていた。リィン教官には旅行なのだから自由に行動すればどうかと言われたが、彼と一緒に行動しているリィン教官がなんとなく心配で、ついていっていた。おそらくユウナやアルティナもそうだったのだろう。特にアルティナは内戦の時から彼を知っていて、最悪だと語っていたし。
 ミュゼとアッシュは面白半分についてきてた可能性は高いが──。
 敵同士のはずの二人がいくら旅行だと言っても仲良さそうにして会話をしている二人を見て不思議だった。
 リィン教官が釣りをしている間も、なんだかんだで待っていたし。
 楽しそうにしているリィン教官を眺めてたんだろうなと、二人の関係を知った後にそう思った。
 ようやく釣りが終わったごろに、彼は動いてこちらからはリィン教官の姿が死角となってたが、何かをしたのか、リィン教官の驚いた声が聞こえた後、バケツを彼に渡してて、何が起きたのかわからなかった。ユウナたちも何が起きたのかわかってなかったようだった。
 その後、リィン教官は釣った魚を郷の人達に分け与えてはあれこれ郷の人達にお礼とかもらっていたが、あの執行者を荷物持ちにさせてたのには驚かされた。めんどくせえと言いながら荷物を持っていた執行者にも驚いたが。
 その後ようやく執行者の彼がリィン教官から離れていった後、旧Ⅶ組の人達がリィン教官に話しかけていて、辛くないのかとか聞いていた。その時は何のことだと思っていたが、リィン教官の少し寂しそうな顔が印象的だった。旧Ⅶ組の人達は、なんとなく二人の関係を知っていたんだろうな。知っていて止めようとしなかったんだろうかと、少し疑問に思ったが──。

 そのうち、露天風呂に入るかと向かったが、すでに結社の人達が先に入っており、他の人たちは入るに入れないでいた。そこにリィン教官も来て話をしていたと思ったら横から腕が伸びてきてリィン教官を中へと引きずり込んでいた。そして中から聞こえる慌てたリィン教官の声と劫炎の声。助けてくれと聞こえ、アッシュとユーシスさんたちと一緒に中へと入ったが、明らかに不機嫌になった劫炎の殺気に当てられてそそくさと引き返した。
 なんか、戦闘中よりも明らかに殺気を向けられたようなきがするんだが。
 ユーシスさんたちもだが、アッシュもあれはやべぇとか何とか言ってたしな。
 リィン教官をどうにかしないと、と思っていたが、やがて静かになったことからそのまま引きずり込まれてしまったのだとわかり、心の中でリィン教官に謝ることしかできなかった。
 無事に露天風呂から戻ってきたリィン教官は僕たちに対していい笑顔だった。──怖かったな。
 露天風呂は気持ちよかったんだが、こんな状態じゃなければもっと楽しめたんだろうな。分校長は楽しんでるのは見て取れたが。今度訪れることができた時はゆっくりしたいなと心底思った。

 食事の時もやはりと言うべきか、結社の人達も同じ場にいて、分校長をはじめ教官や旧Ⅶ組の人達が彼らの近くに座り、僕たち生徒は少し離れたところに座った。リィン教官は、というとまた劫炎に何か言われたらしく、それに加えて生徒のために行けと分校長からの一言もあり、うなだれながら劫炎の隣りに座っていた。
 リィン教官のことを気にしつつも、出された食事はとても美味しかった。
 魚料理も出され、リィン教官が釣った魚なのだろうと思った。ここにも差し入れているのを見ていたし。
 なんだかんだで食事もそろそろ終わり、みんながくつろぎ始めてもリィン教官はまだ結社の人達と同じ席に座って劫炎が進める酒を呑んでいた。と言うか、呑まされていた。頬は紅く染まっていて、なんだか普段とは違う雰囲気を纏っていた。それにアッシュやミュゼが色気がどうとか言っていて、確かにと納得してしまう。

「リィン」
「……え?」
 普段は名前すら呼んでいないはずの劫炎がリィン教官の名前を呼んだことに驚き、そちらを向くとリィン教官を引き寄せて酒を口移しで呑ませていたところだった。驚いていると、劫炎はリィン教官の口からこぼれ落ちたものを舐めて、赤面し口をパクパクさせているリィン教官にまた口移しで酒を呑ませてた。
 流石に悪ふざけがすぎると思い、リィン教官を今度こそ救出するために向かおうとするが、邪魔をするなという視線とともに殺気を向けられ、変な格好で止まってしまう。それでも、睨みだけはきかせる。そんな僕たちを劫炎は鼻で笑っていたが、手に持っていたグラスを奪われ、奪った相手を見ていた。それはリィン教官で、リィン教官は奪ったグラスに入っていた酒を自ら呑み、それを劫炎に呑ませた。──自分がされたように口移しで。それに驚く。劫炎も驚いていたが、なにか面白そうにしていた。
「酔ったか?」
「酔ってない……」
 酔ってないと言い張るリィン教官に、酔ってますよね!?と言いたい。普段のリィン教官ならしなさそうな仕草を劫炎にしているし。
 なんだか怪しい雰囲気になってきたんだが、旧Ⅶ組の人達はなんだか仕方がないというような感じで、止めようとしていないし、分校長は止める気はなさそうだし、他は──と思ったが、動こうとする人がいないな。
 特に分校のみんなは信じられないようなものを見るように驚いてる。僕たちも含めて。
「マクバーン、それ以上やるつもりなら部屋でやりなよ」
「そのつもりだ」
 道化師が劫炎にそう言うと、劫炎はリィン教官を抱きかかえてその場から去っていった。
 なぜか、追うことはできなかった。

 次の日の昼頃までリィン教官の姿を見ることはなかったが、外へ出るリィン教官の姿を見かけて後を追った。ユウナたちも気付き、共に後を追う。
 郷にほぼ近い少し拓けた場所でリィン教官が太刀を取り出して、鍛錬をしようとしていたが、なんだかいつもの教官ではなく、なんだか弱々しく感じてしまった。
「太刀筋にキレがないな、リィン? 何を悩んでいるんだ、お前は」
「っ……マクバーン……」
 いつの間にかその場にいた劫炎に驚きながらも、彼ほどの強者なら気配すら感じさせずにここまで来れるのだと、思い知らされた。
 僕たちがいるのは分かっているようだが、構わずにリィン教官の側にいき、リィン教官の頬を撫で涙を拭っていた。その涙に一番驚いていたのは流していたリィン教官だった。
「泣くのもわからなくなるほど自分を追い込むな。お前が辛いと言うなら、このままお前を攫ってやる。お前が嫌だと言っても俺は実行する。そこにいる奴らが阻止しようとしても無駄だ」
 そういって睨まれた。
 リィン教官は、僕たちや旧Ⅶ組の人たちががここにいたのも気づいていなかったみたいだった。あれだけ気配に敏感なリィン教官が。
 そんなリィン教官が心配になる。そこまで本調子じゃないほど、何を悩んでいるのかと。
 そう思っていると、リィン教官がすがるように劫炎に抱きついて、そんなリィン教官を劫炎は強く抱きしめている。
「……辛い……みんなに、辛くないのかって聞かれて……辛いに、決まってる……」
 昨日のあの時のことかとわかる。
「割り切ってた、つもりだったけど、やっぱり……辛いんだ。敵同士なのだから、連絡もできないのだから仕方がないと思っていても……ずっと会えないのは、辛い……辛かった……。クロスベルで会えたことが、嬉しかったんだ……懐かしいって……内戦の時に何度も感じた共鳴みたいなあの感覚が、懐かしくて……ようやく、会えるんだって……」
 そういえばタワーでリィン教官はいち早く劫炎の気配に感づいていたのを思い出した。屋上の映像を見る前から、誰が襲撃したのか知っていたような様子だった。リィン教官のあの力が反応していたからわかったのか。
「会えなかった間、ずっとマクバーンにもらったこれが、俺の心の支えでもあったんだ……」
 胸辺りを握りしめているリィン教官を見て、あのペンダントは劫炎にもらったものだったんだと知る。
 鍛錬をした後、汗を流すためにお風呂に入った時、偶然リィン教官と一緒になったことがあり、そのときにいつも首にかけているペンダントのことを聞いてみたことがあった。
「そのアクセサリ、いつもしてますね? 大切なものなんですか?」
「え……? あぁ、大切なんだ、俺にとって。ある人にもらったものだけど、とても大切で、今の俺の支えの一つかな? まぁ、今その人がどう思っているのか、わからないけどな」
 そう告げるリィン教官はどこか寂しそうで、でも本当に大切そうに握りしめていて、印象に残っていた。
 だからあんなに寂しそうにしていたのか。
「本当はずっと一緒にいたい、側にいてほしい。でもそれはできない……。俺とマクバーンは目的が違うのだから……俺の進みたい道は、そっちじゃないから……一緒には、いられない……そう、思わないと……」
「リィン、もういい。全部ぶちまけろと言ったのは俺だが、お前は一人で抱え込みすぎだ」
 流石にこれ以上はもういいと、劫炎はリィン教官が流す涙を拭い、先程よりも強い力で抱きしめている。リィン教官もそれに答えるかのように抱きしめて、どこか安心しているようだった。
「お前を攫っていってやる。止めようとしても無駄だ。──少しは休ませてやれ」
 止める暇もなく、劫炎はリィン教官を抱きしめたまま転移術を使い、リィン教官を連れて行った。
 あんなに弱々しいリィン教官を見たのは初めてで、考えさせられてしまう。
「やっぱり、リィン無理してたのか」
「どこか辛そうにしてたのはわかっていたからな」
 旧Ⅶ組の人たちは二人の関係をどう思っていたのだろうか。
「あんたらはシュバルツァーを止めなかったのか?」
 アッシュも疑問に思ったのだろう。
 僕もそこには疑問に思っていた。
「んー…本当は止めたほうがいいっていうのはわかっていたんだけど……でも、止められないよ」
「止めていたらこんなことにはならなかったんじゃないのでしょうか?」
「リィンのあの鬼の力……内戦の途中から制御できるようになってたけど、それがパンタグリュエルでの後だったのよね。そこで貴族派にいた人たちと話すことができたみたいで、その中にはマクバーンも入っていたのよね」
「唯一あの力のことを聞ける相手だっただろうね」
「だから、二人がそうなってしまったのは、仕方がないのかなって」
「言ってしまえば二人は同じ混じっている者同士。混じり具合は違うでしょうけど、惹かれ合ってしまったのかもしれませんね」
「だから僕たちはリィンを止められないかな。だからせめて、力になろうって」
 普通なら敵同士である時点で止めているだろうと思うが、旧Ⅶ組の人たちはそう思っていたのか。
 確かに、リィン教官のあの力のことを考えるとそう思ってしまうのかもしれない。
「でもあんなに弱々しいリィン教官、初めて見た……」
「それは我らもだ。リィンの大丈夫は大丈夫じゃないとわかっていたが」
「でもそれはリィン教官自身もわかっていなかったようですし、劫炎だからこそ気づいたのかもしれないですね」
「結局、一番リィン教官のことをわかっていたのは、あの結社の人だったってことよね……」
 そう思うと、何も言えなくなってしまう。
 無茶はしないでくださいとリィン教官に言ったことはあるが、結局、強敵が相手になってしまうと僕たちはリィン教官に頼る部分もあり、力不足を感じる。
「戻ってくる、でしょうか……」
「リィンは戻りたいと言っても、マクバーンが許してくれるかな……?」
「あんな状態のリィンを見たら絶対に帰さないとか言いそうだよね」
「それにマクバーンは何度かリィンにこっちに来るかとか言っていたみたいだし」
「一応今まではリィンの意見を尊重してくれてたみたいだけど、流石に今回ばかりは……」
 帰さない可能性はあるだろうな。
 でも、僕たちは待つしかないんだ。
「そうね。私たちは待つしかないよね……」

 その後、分校長に伝えるべく戻ると、状況をすでに把握しているらしい分校長はリィン教官の扱いを休職扱いにすると告げた。
 分校長は気づいていたのか。
 そう言えば、他の結社の人たちはどうしたのだろうかと思ったが、少し前に帰っていったと告げられた。そのときに、あの子はしばらく預かるよと言われたようで、状況を理解していたらしい分校長はそれを了承したようだった。
「こういう時は無理にでも休ませたほうがいいだろう」
 本当に、この人はなんでもお見通しなのかと思ってしまう。


 リィン教官が戻ってきたのは、それから約1ヶ月後のことだった。──劫炎も一緒にいたが。
 1ヶ月、どうしていたのか、聞いてもいいのかわからなかったが、気になってしまったので聞いてしまった。
「ほぼベッドの住人だったとしか……」
 そう答えたリィン教官にアッシュが抱き潰されてたのかとか聞いていたが、すぐに否定してた。
 体調不良で熱を出してたとか、それを聞いて本当に無茶してたんだと実感した。
「約3週間ぐらいか? その間ずっと熱もなかなか下がらなくてな、うなされてることもあったみたいで……マクバーンを心配させたな。でも嬉しかったかな。ずっとそばに居てくれたし」
「手も握っていてやったしな? 口移しで水を飲ませたりとか、一緒に寝てたとか。色々、な?」
 なんだか楽しそうに言ってるんだが。
 色々と暴露されてしまったリィン教官は赤面してるし。
 アッシュはそれを聞いてニヤついてるし、ミュゼはあらあらとか言ってるし。
「でもよく帰しましたね。条件をつけたとは言え……」
「あ? 帰すつもりはなかったが、抱き潰してたらマスター大好きっ子にあなたが無茶をさせてどうするんですとか何とか言いやがって俺からリィンを引き離しやがったからな。その後こいつの味方をしやがったし……」
 なんかいけないことを聞いたような気がするが。
「へぇ、あんた抱き潰されていたのか」
「マクバーン!!」
「クク……まぁ、あれだ。お前ら、リィンに頼らないようにしろよ? 次こいつが倒れたりでもしたら……消す」
 殺気を向けられ、怖気づいてしまう。
 劫炎なら簡単に僕たちを消せるだろう。
「そんなことさせないからな。無茶をしてでもマクバーンを止める」
 消されないように、そしてリィン教官にこれ以上無茶をさせないためにも、僕たち新Ⅶ組は強くならなきゃいけないなと思った。

 第Ⅱ分校に来てからリィン教官から離れることはほぼなかったはずの劫炎が、珍しく一人でいた。
「何かようか?」
 やはり気づかれていたか。
「珍しく一人でいるんですね」
「リィンは今は会議中だ。それを邪魔する気はねぇ」
 そういうことか。
 何でもかんでも口をだすのかと思ったらそうでもなく、仕事関係だと口を出してはいないようだった。
「あいつと約束したからな、仕事関係には口を出さないってな」
「なるほど……」
「流石に町の奴らからの頼みごとには口を出すが。あいつは頼まれたらそれを全部やろうとしやがる……。それ以外にも仕事だろうが部活とかにも参加しやがるし、明らかにそれはあいつの仕事じゃないだろうというのも頼まれればやろうとする」
「それは確かに……」
 本当によく見てるんだな。そしてリィン教官の性格を理解しているんだな。
「抱き潰してやろうか、マジで」
「それは別の意味で無茶をさせてしまうような」
 頼むからリィン教官を抱き潰させないでくれと思うのは仕方がないよな。
 そんなことを思っていると、会議が終わったのか、リィン教官が姿を現した。僕がここにいるのに驚いていた。
「クルト? どうかしたのか?」
「いえ、少し話をしていただけです」
「そうか? 何もされてないよな?」
「お前以外に何をするんだ、何を。あぁ、こいつを含めた奴らを訓練と称して扱くのはありかもしれねぇな?」
 次元が違うような気がするんだが。
「俺でもマクバーンの相手、無理だと思うんだが……」
「お前は別だ。たしかにお前との戦いも面白いがいざとなればお前は俺の腕の中にいればいい。お前だけは守ってやる」
 そう言いながら劫炎はリィン教官を腕の中に引き寄せて抱きしめていた。
「俺は守られるのは嫌なんだが……」
 腕の中にいるリィン教官はそう不満を言っているが、どこか嬉しそうだった。
 とりあえず、僕の目の前でいちゃつき始めた二人をどうすれば──。止めたら劫炎は絶対に不機嫌になるのは目に見えてるし。
 これ以上二人の邪魔をしたくないと、リィン教官に一言告げてその場から去ることにした。そのときリィン教官の声にならない叫びを聞いたようなきがするが、気のせいだということにしておこう。
 隠すことを必要としなくなったあの二人の関係、最初はどうするべきかと悩んでしまったが、リィン教官が嬉しそうに笑う日が増えたからよしとするか。

 後日、無茶をしたらしいリィン教官が劫炎にかなり長いこと説教され、抱き潰されたと聞かされたときには、懲りてないなと。
 暫くの間、リィン教官が担当の授業は自習になりそうだ。
 あまり無茶をしないでくださいと心の中で願ったが、おそらく無理だろうなと同時に思ってしまったのは、仕方がないことだと思う。
サイト掲載日 [2018年1月25日]
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開設:2014/02/13
移転:2017/06/17
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