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分校長の一言で、何故か故郷であるユミルに行くことになった。
第Ⅱ分校の職員生徒全員と、旧Ⅶ組メンバーで。旅費は分校長が全額負担だと聞いた。
こんな時にいいんだろうかと思ったが、分校長はこんな時だからこそ休憩が必要だと告げ、実行された。こんな形でだが、ユミルに帰ってこれたのは嬉しいと感じてしまう。
ユミルに来て、新旧Ⅶ組とともに、まずは領主でもある実家に挨拶と報告をしに立ち寄り、そこからは自由行動をしても良いという分校長からのお達しもあり、自由行動とした。
俺はひとまず、ユミルを挨拶も兼ねて見回ることにした。
雑貨屋へ入ると、ここにはいないであろう人物がそこにいた。
「……え?」
「あ?」
「……え、なんで?」
何故彼が──マクバーンがここにいるんだ。
マクバーンは俺の姿をとらえて楽しそうだ。
「クク、ただの旅行だ」
「そ……そう、か……」
マクバーンは買い物を済ませたのか、雑貨屋から出ようとする。何故か俺も巻き込みつつ。
抵抗するも、無駄な努力に終わった。
外に出ると、新Ⅶ組のメンバーと他の結社のメンバーが睨み合っていた。あれは戦鬼と名乗ったランディさんの従妹のシャーリィと神速のデュバリィ。
まさか他にも結社のメンバーが居るのか?と思い、マクバーンを見つめると、伝わったのだろう。他に道化師と鉄機隊の他の二人も来ていると告げる。
「……なんでこのタイミングなんだ。それよりも、あれ放っておいたら戦闘始まりそうだから、ちょっと止めてくる。だからいい加減、離してくれ……」
いつの間にか腰に腕を回していたマクバーンの手を叩きながら告げると、簡単に解放してくれた。それが少し怖いんだが、今は目の前で睨み合ってる双方を止めよう。
「教官! こいつら……!」
「言いたいことはわかるが……少し落ち着くように。それに彼らもどうやら旅行中だから、おそらく問題は起こさないだろう。まぁ、ユミルで何かする気があるなら全力で阻止するし。それに……何か起こしたら、今後一切ユミルの立入禁止にするけど、どうする?」
マクバーンにも視線を向けて告げる。
「問題は起こす気ねぇよ、俺の方はな。そいつらは知らんが」
「わたくしたちも起こす気はありませんわ。今回はそこにいる男が温泉に入りてぇとかいい始めたのがそもそもの始まりですし。あなたもいいですわね?」
「もちろん。ユミルの温泉、入ってみたかったんだよね。だから何もしないよ」
「わかった。ユウナ、クルトにアルティナ。それにミュゼにアッシュも、武器は収めてくれ」
「ですが教官!!」
「収めてくれ。それに、ユミルで戦闘を始めるなら──分かっているよな?」
にこりとしながら告げると、何故かビクリと怯えられた。向こうでも神速がビクリとなったような気がしたけど、なんでだろう。
マクバーンは面白そうに笑っていたが。
でもそれで新Ⅶ組も取り出していた武器を渋々と収めていたから、戦闘は免れた。
結社の面々は宿に戻っていった。新Ⅶ組は俺の後ろをついてきてるが、少し離れている。
きっと、俺の隣にいるマクバーンが原因だろう。
「マクバーン……なんで俺についてきてるんだ?」
「クク、深い意味はないが……お前は嫌なのか?」
俺と一緒にいるのがと聞こえる。そんなわけない。だけど、他の人たちがいると言うのに、そんなこと言えない。──言えるわけがないのは分かっているくせに。
「なんであの結社の人、教官の隣にいるんだろう」
「しかも何故か親しそうに会話してますね」
そんな後ろの会話が聞こえてくる。
そんなに親しそうに会話してるかなと考えてみたが、たしかに会話してるかもしれない。
「あいつらが俺とお前の関係知ったら、どう思うだろうな?」
「マクバーン……」
「クク、俺からは言うつもりはないが、こちらの奴らは気づいてる奴らのほうが多いからな」
「……え?」
「隠してねぇし。名前は言ってないがな」
「え……?」
そう告げるマクバーンに俺の思考は止まる。
あぁ、でもマクバーンなら隠さないだろうなと思ってしまう。
それから、しばらくはユミル内を散歩のように歩いた。その間ずっとマクバーンはついてきていた。
Ⅶ組の生徒も何故か後ろについてきていたが、旅行で自由行動なのだし、演習のように一緒に行動しなくてもいいんだがな。そう言ったが、気にしないでくださいと言われてしまう。
マクバーンはなにか面白いのか、ククッ、と笑っていたが──。
「釣りでもしてこようかな……」
多く釣ったら郷のみんなにわけてもいいしな。
そう思い、釣り場に向かう。当然のようにマクバーンは着いてきてた。
「マクバーン……釣りにもついてくるのか?」
「まぁ、気にするな」
着いてきても暇なだけだと思うんだが、本人がいいなら別にいいか。
釣りをしているリィンの姿をじっと見つめる。楽しそうにやっている姿を見るのもたまにはいい。
着いてきても楽しくないぞと言われたが、お前を見ているだけで楽しいと言ってやろうか。ただでさえこういう時間は貴重だしな。まぁ、邪魔な奴らは着いてくるが──。
俺が視線をやればビクリと怯えながらもこちらを睨んでくる。
リィンを俺から守っているつもりなのか。だが、お前らじゃ相手にもならねぇな。まぁ、こいつらが心配しているのは俺がリィンを攻撃しないか、だろうな。そんなことしねぇがな。
そんなことを考えてる間に、リィンはどんどんと魚を釣っていっている。
(楽しそうに釣っているな。リィンらしいじゃねぇか)
周りなどを気にせずに、今は釣りを楽しめばいい。お前の邪魔をする奴らのことなど気にせずにな。
魔獣は俺がここにいるから来ねぇしな。
しばらくして、釣りを終えたリィンが竿をしまい始めた。
「終わったのか?」
「たくさん釣れたしな。鳳翼館とかでも使ってもらえばいいし。それよりも、マクバーンがずっといるとは思わなかった。退屈じゃなかったのか?」
「お前を見てるだけで楽しかったが?」
そう言うと少しだけ頬を赤くしていた。
邪魔な奴らがいなかったら、ここでキスをしてたんだがな。まぁ、この角度からじゃ何をしようが見えないだろうが。
「リィン」
「何だ? ……っ」
帰り支度をしていたリィンを呼び、振り返ったリィンの唇を奪う。
「なっ……ななな……!!」
まさかここでキスされるとは思わなかったのだろう。
「クク、どうせあいつらにはこの角度からじゃ死角になってて何があったのかまでわからねぇよ」
慌てるリィンにそう告げると、何か言いたげにこちらを見るが、釣った魚が大量に入ったバケツをこちらに寄越す。持てということだろう。
元から持つつもりでいた。笑いながら受け取るとリィンは竿を持って先に行こうとする。
不意に立ち止まったリィンがこちらを振り返り、リィンが俺の唇を奪った。
たまに大胆な行動を起こすのが面白い。隠したいと思ってはいるんだろうがな。
「クク、いいのか?」
「この角度からじゃ見えないから大丈夫だろう?」
「クク、そうだな」
先程俺が言った言葉を今度はリィンが告げる。
そう来るとはな。このまま押し倒したい衝動にかられるが、それは後の楽しみにとっておくか。
ユミルに戻り大量に釣れた魚を郷のみんなに差し入れしつつ、鳳翼館に戻る。鳳翼館には他の生徒たちも戻ってきており、俺の隣にマクバーンがいるのに驚いていた。
驚くのはわかる。だが今更何を言っても無駄なので、俺が何も言わない、マクバーンの好きにさせているのを見て不思議に思いつつも、気にしないようにしていた。──が、視線はちらほらと感じる。それは仕方がないと諦めるしかない。
しかもマクバーンに荷物持ちさせているしな。
「マクバーン、そこに荷物置いてくれ」
「あぁ」
雑貨屋のおばさんに持たされた荷物をテーブルの上に置いてもらう。
そのお礼をいうと後で覚悟しておけよと言われてしまったのだが、何を覚悟すればいいんだろうな。予想はつくんだが、無理だろう。二人きりのときならまだしも、今は分校の職員や生徒もいるし、旧Ⅶ組のみんなもいるし。マクバーンも分かっているくせに、そう言ってくるのだから。
「まぁ、また後でな」
そういい、ようやくマクバーンは俺からはなれていった。
寂しいと思ってしまうのは気のせいだと言い聞かせる。本来俺たちは敵同士なのだと。
目を伏せ、気持ちを切り替える。
俺からようやくマクバーンが離れて行ったからだろう、Ⅶ組の仲間たちが俺に近寄ってくる。
「やっぱり劫炎も着ていたのね」
「結社の人たちがいたのには驚いたけど」
「あぁ。でも彼らも旅行中で何もしないと言っていたから、大丈夫だろう」
「道化師もそう言ってたし、そこは信用できそうだな」
どうやらみんなの方は道化師のほうと接触していたようだ。
「マクバーンとどこに行ってたの?」
マクバーンと一緒にいた俺を心配してくれているのだろう。
「ただの釣りだよ。俺が郷のみんなに挨拶している最中も着いてきてたが」
「そうか」
「……リィン……辛くない?」
「ん?」
「いや、その……」
みんなは分かっているのかもしれないな。
俺たちの関係を──。
「そのことは、そのうちにでも話すよ」
そう告げるとそれ以上は聞いてこなかった。それは少しありがたいかもしれない。
そこで話は一旦終わった。
辛くないのかと言われれば、辛い。
本当はずっといたいと思っている。だがそれはできない。
俺と彼とでは目的が違う。でもやっぱり一緒にいたいという思いはある。
俺の心の中で一緒にいたいと気持ちと、それはできないという気持ちが渦巻く。
しっかりしないと、どこかでこの気持ちが爆発してしまうかもしれないな。
気持ちを切り替えようと、そろそろ温泉に入る時間帯になったため、そちらに向かう。
何故か生徒たちがどうしようかって迷っていたので声をかける。
「どうかしたのか?」
「えっと、それが……」
聞いたところ、どうやら今は結社の人たちが入っているようで、入るに入れないようだった。
どうするのが一番なのか、と考えていると、横から手が伸びてきて、中へと引きずり込まれた。
「教官!?」
「リィンくん!?」
生徒やトワ先輩の声が聞こえた。
引きずり込んだ人物を見ると、やはりマクバーンだった。
「マクバーン……いきなり引きずり込まないでくれ……」
「さっさと入ってこないお前が悪い」
「いや、あのな……って、何をして……」
俺の服を脱がそうとしているマクバーンの手を止める。
不機嫌な顔をしている。
「あ? だったら服着たまま入るのか?」
「いや、それは……って、ちょっと待て!! わかった!! わかったから服を破ろうとするな!! って、どこ触って……待て!! 待ってくれ、マクバーン!! 誰か助け……いや、本当に待てってば!!」
「教官、大丈夫ですか!!」
その叫びを聞いていたであろうクルトやアッシュ、ユーシスたちが飛び込んできたが、俺達のやり取りを見て、再び外へと出ようとする。
「なんで助けてくれないんだ!!」
「リィン、無理だ。諦めてくれ」
不機嫌なマクバーンの殺気を当てられたのだろう。
助けを求めても首を横に振っている。
本当に誰か助けてくれ。
止めようとしたり誰かに助けを求めるとマクバーンは明らかに不機嫌になるし。
結局、服は破られることもなかったが、俺は引きずられるように露天風呂の方へと向かうしかなかった。
「温泉は気持ちいいねぇ」
のんびりとそんなことを言ってるのは道化師だった。
結社の人たちの中に俺がいるのはどうしてだろうな。
マクバーンは相変わらず俺の隣に陣取ってるし。
はぁ、とため息をつく。
「なんだ? 気持ちよくねぇのか?」
「温泉は気持ちがいいに決まっているだろう?」
「どうせ、何故ここにいるのかとか考えてるんだろう? 気にする必要ねぇんじゃないのか?」
「いや、普通気にするだろう……」
そんな会話をしていると、道化師が近づいてきた。
「ねぇ、灰のお兄さん。結社に入らない?」
「なぜ?」
「灰のお兄さんなら十分やっていけると思うから、かな? どうかなあ?」
そう言われて、首を横に振る。
道化師は俺の答えはわかっていたのだろう。
「やっぱりダメか。残念。でもさ」
入ったらマクバーンと一緒にずっといれるよ。と耳打ちされる。
それは言われなくても分かっている。だけど、それでも俺は結社に入るつもりはない。
マクバーンに散々言われてるけど、答えは変わらない。
「灰のお兄さんって、結構頑固?」
「こういうところは頑固かもな」
「俺って頑固なのか?」
そうなのだろうか。
でもこうと決めたらそれに向かって行こうとする気がするから、頑固なのかもな。
そう思いながら考えていたら、視線を感じた。視線を感じた方を見れば、神速のデュバリィがこちらを見ていた。見ていたが、俺が視線に気づいたと同時に慌てるように視線を外した。
何だったんだろう。
首を傾けていると、マクバーンが後ろから抱きしめてくる。
「何だよ、マクバーン」
「俺が側にいるのに、女に視線をやるんじゃねぇよ」
「見られているようだったから少し見ただけだろう? すぐに視線そらされたけど、何だったんだろう?」
「気にしてんじゃねぇよ」
更に強く抱きしめられる。
こうなったらマクバーンは離してくれないだろうなと思い、マクバーンの好きにさせた。
普段なら人目は気にするところだが、結社の面々は気づいてるものが多いみたいだから、気にしなくてもいいか。
そんなことを思っていたが、さっきまで視線を向けていた神速のデュバリィがかなり驚いていたことを知らなかった。
「なんであの男は灰の起動者にあんなことをしているんですの?」
「……デュバリィ……あなた……あれで気づかないのね」
「だから、なんなんですの?」
「ふふ、あの二人。付き合ってるよ」
「……え」
叫び声が聞こえたと思ったら、どうやら神速のデュバリィが叫んだようだが、どうかしたのだろうか。
なぜかこちらを凝視しているのが気になるが。まぁ、気にしないでおくか。気にしたらマクバーンの機嫌が悪くなるだろうし。今も少し機嫌が悪そうだし。
「マクバーン、不機嫌になりすぎだぞ」
「お前が俺以外のものに気を取られてるからだろうが。今は結社の奴らしかいねぇんだから俺に集中しろ」
「仕方ないな」
今だけは、と思いマクバーンに身体を預ける。
その様子を見て神速のデュバリィが更に驚いてたなんて、知らない。
「あの二人っていつから……」
「内戦の時からみたいだよ」
「……全然気づきませんでしたわ……」
「まぁ、戦いの場で会えば普通に戦っているからね、あの二人。マクバーンの方はそれはそれで楽しそうだったけど。クロスベルでの実験が終わったあと、野暮用とか言って何処かに出かけて言ってたけど、あれって彼のところに行ってたんだと思うよ。結構ラブラブっぽいよ、あの二人」
そんな道化師の言葉に神速のデュバリィがガクリと肩を落としていたことなんか、俺は知らない。
マクバーンに好きにさせている。マクバーンは髪に触れたりなんだりしている。機嫌は良さそうだった。
たまに俺の弱い部分に触って俺の反応を見るのは止めてほしいが。
ピクリと震えるたびにマクバーンは面白そうに笑っている。そんなマクバーンを弱く叩く。
「マクバーン、そんなことするなら俺もう上がりたいんだが?」
「あ?」
「不機嫌になるなって……。それに、そろそろ上がらないと、生徒たちや他の人たちも入れないだろう?」
そう言うと明らかに不機嫌になっていくんだが、流石にこれ以上長く入っていても逆上せるだけだし、生徒や他の人たちにも温泉を楽しんでもらいたい。
「また後で入ってもいいから、今は上がるぞ」
「仕方がねぇ、今は上がってやる」
少し考えてからマクバーンはやけに素直に露天風呂から出ていこうとしている。
なぜだろうと不思議に思っていると、名前を呼ばれ、マクバーンの後に続く。
マクバーンが出たからだろうか、他の結社の面々もどうやら上がるようだ。これで生徒や他の人たちも温泉に入れるなと安心した。
「教官、えっと……大丈夫でしたか?」
「助けてくれなかったな」
にこりとしながら答えると、謝られた。
まぁ、マクバーン相手には仕方がないと結論づけた。
「なんだか叫び声が聞こえたと思ったんですが……」
「あぁ、あの叫び声は鉄機隊の神速の叫び声だな。なんか驚いたような声だったが、話の内容は知らないから何があったのかまではわからないな。それより、彼らはもう上がるみたいだから、そろそろみんなも温泉に入るといい。気持ちが良いぞ」
そう伝えると、生徒たちは安心したのか、温泉に入る準備をして、徐々に中へと入っていく。
俺はそれを見送る中、いつの間にか後ろにいたマクバーンに襟を捕まれ、また後でなと耳打ちされ、耳を齧られた。
「っ……マク、バーン……」
「ククッ、それじゃな」
齧られた耳を抑えながら、マクバーンの後ろ姿をじっと見つめる。
顔が赤くなっているのがわかる。
(バカマクバーン……)
俺はしばらくそこから動けなかった。
サイト掲載日 [2017年12月15日]
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