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「ああ、なんとか手伝ってくれ、頼む」



 ARCUSに入った通信に出て。リィンは絶句した。この状況で聞くはずのない、懐かしい声。

『よっ、後輩君』

 何故、だとか。今お前はどこにいるんだとか、無事なのかとか。聞きたいことも言いたいことも殴りたいこともたくさんありすぎて、溢れてまともに言葉にすることもできずにARCUSを握りしめる。
 何故、そんな。
 あの頃みたいに、普通の声で話せるんだ、おまえは。こっちは喉が震えて、声すらまともに出せないのに。
 カレイジャスの甲板に、座り込む。

『……あれ? 番号間違えたか?』
「そうだろうな、多分お前は未来にでも掛けたんじゃないか?」

 きっと過去からの何らかの混線。至宝の力でもあれば、そういうことだって起こり得るんじゃないだろうか。もしくは時属性のアーツの暴発か。その方がまだ、現実味があるだろう。
 今、リィンに彼がARCUSで連絡を取り合うことはない。

「クロウ、お前はいまどこにいる?」
『パンタグリュエルのデッキ』

 帰ってきた答えに、嘆息して膝に額を押し付ける。過去からの混線ではないらしい。現在の、帝国解放戦線リーダー《C》からの、通信。
 ありえないだろ、という呟きは空へと熔けた。

『お前今、どのあたりにいるんだ?』
「それを聞いてどうするんだ。攻撃でも掛けてくるのか?」
『ばぁか、今日は聖誕祭だろうが』

 そういって、ARCUSの向こうで笑う気配。

『そういうきな臭い話は今日だけはなしでいいんじゃねえ?』
「そんなわけにはいかないだろ……そもそもこの通信どうやって」
『ああ、とある筋からアーティファクト手に入れてな。絶対に傍受されないらしいぜ?』

 あまりにも、あのころと変わらないクロウの様子に。どうすればいいのかわからなくなる。ただ、ARCUSを握ってその声を聴く。

『ま、それに乗ってるんなら帝国内のどこにでもこれるよな? 気が向いたらジュライに来いよ』

 応えなんか、言えるわけがなかった。クロウだってわかってるんだろう。無駄に頭だけはいいんだ。あいつは。ああいや、目もいいんだっけ?
 返事をできない俺を見越したように、ARCUSのスピーカーからクロウの笑う声が響く。

『まぁそう難しく考えんなって』

 馬鹿じゃないのか。考えるに決まってるだろう、難しすぎて考えても正答は見つからないけれど。

『会いたいだけだ、俺がお前に』

 その言葉に。その、声に。
思考が完全にフリーズした。



 ありえない。何で。どうして。
 そもそも会ってどうするんだ? 捕まえてⅦ組に戻らせる?
 それをあきらめたわけじゃないけれど。こうして呼びつけられてのこのこ会いに行って、俺一人であいつを捕まえられるのか?
 それに、罠かもしれない。
 あのひねくれ捲った思考回路の持ち主が、単純に呼びつけるような作戦を立てるともおもえないけれど。
 どうしよう。どうすれば、いいんだろう。
 膝に埋めた頭を、がしがしとかきながらとっくに通信の切れているARCUSを、耳から離せない。

 ずっと、追っていたんだ。クロウを。

「……俺だって、お前に会いたいさ」

 呟いて。ARCUSをポーチにしまって立ち上がった。甲板から船室へ入って、ブリッジに向かう。

「すいませんトヴァルさん、今どの辺飛んでるんですか?」
「ああ、帝国西部だな」

 つ、とブリッジのモニターを指示される。

「……」

 なんでこのあたりなんだ。もっと、遠ければ。諦めもついたのに。

「すいません、トヴァルさん」
「おう、どうした?」
「ちょっと俺降ります」
「……は? え? おいちょっとまてリィン」

 慌てるトヴァルさんの声を背に、ヴァリマールが置かれている船倉へと走る。自分のブーツが立てる足音がうるさいくらい耳に響く。ヴァリマールを強奪して、カレイジャスから飛び降りた。
 騎神を目立たない場所に隠してその街を見上げる。
 ジュライ特区。八年前、鉄血宰相の手によって帝国に組み込まれた元自治領。そして帝国解放戦線のリーダーの出身地。
 そんな場所を、革新派がなにもせずに放っておくわけがなかった。

「……勢いできてはみたものの、これじゃ入れないよな」

 現帝国政府にとってお尋ね者なのは貴族派だけじゃない。オリヴァルト皇子旗下にある俺たちだって、似たようなものだ。
 町の入口は兵士がしっかりと警備している。通行証だとか手形だとか、もちろん俺が持っている筈もない。下手に近づこうものなら、あの銃剣で打ち抜かれる。
 けれど、これでよかったんじゃないかと頭の中のどこかでほっとしているのも事実だった。
 呼ばれて来てみたけど、警備が厳しくては入れませんでした。それで自分自身納得させて、はやくカレイジャスに戻るべきだ。
 それが今の俺の立場で取るべき最善策だろう。
 会えるなんて、思ってもいけなかったんだと思う。
 諦めて、ヴァリマールへ戻ろうとしたとき。背後から腕を掴まれ反射的に肘を打ち込んで距離を取る。

「よっ、おつとめゴクロ―さん。調子の方はどうよ」

 耳元で囁かれたのは、懐かしい……懐かしすぎる声と、言葉。

「元気そうでなにより、だ」
「………………クロウ」

 何故、ここにいるんだ。
 そりゃあ来いと呼びつけたのは、この男だけれど。

「なんだよ、感動の再会に泣きそう?」
「泣く訳、ないだろ」

 吐き捨てて、睨み付ける。

「なんかあれだな。全身の毛逆立ってる猫みてぇ」

 くつくつと喉奥で笑う声も、調子も。俺の知っているクロウ・アームブラストそのもので。幻でもなければ誰かが変装しているというわけでもないらしい。
 罠、ということもなさそうだ。気配を探っても、VやSの存在は感じない。

「どういうつもりだクロウ。いきなり、あんな通信を寄越して」
「ちょっとおまえに手伝ってほしいことがあるんだよ」

 口端を吊り上げて、笑みを浮かべる。



 改革派の軍の警備の薄い地下道から、ジュライの街中へと案内される。

「出身者舐めるなよ」
「……ずいぶん古いな、中世のものか」
「だろうな。帝都やバリアハートにも似たようなのあっただろ。この街だってそれくらい古くからあったんだ」

 応える声は、淡々としている。何を思っているんだろう。
 故郷が、奪われて蹂躙される。それは、どれほどつらいんだろう。脳裏に、ユミルの景色と両親とエリゼの顔が浮かんで、そこで想像を止めた。

「まぁこの道知ってるの今じゃ俺くらいだろうけどな」
「そんな貴重な情報を俺に教えていいのか? この地下道をうまく使えばうちがここを占拠することだってできるだろ」
「正直なところ、そうなったほうがいいんじゃないかとも思ってる」

 視線の先でクロウが肩を竦める。

「おまえんとこの皇子殿下なら、街の奴らを悪いようにはしないだろ? カイエンやゼリカのおやじよりよっぽど信用できる」
「……」

 ならば。
 帰ってこいというべきなんだろうか。
 トリスタで会ったときは素直に口にできたことが、色々なしがらみと立場を得てしまったせいで重くなる。

「んな顔すんなって」

 あのころのように、容易く頭を撫でられる。
 ほんの、二か月前のことなのに。

「ヴァルカンやスカーレットつれていけばあいつら泣きそうだし、ジョルジュの奴はトワとゼリカんとこだろうし。おまえしか思いつかなかった」
「友達少なすぎるだろ、クロウ」
「まぁ否定はできねえな」

 笑って。クロウはジャケットのフードを被った。さすがに素顔で街を歩くわけにはいかないんだろう。

「おまえもそれ、被っとけ」
「二人して顔隠して歩いてたら、その方が怪しすぎるだろ」

 苦笑して、拒否する。

「じゃあ俺だけ妖しくなるだろうが」
「クロウは元々が怪しすぎるから大丈夫だ」
「後輩君の俺の扱いが何気に酷くてお兄さん泣きそう」
「自業自得」

 クロウなんか泣けばいいんだ。
 半眼で睨んで、そして目の前の扉を見る。この向こうに旧ジュライ市国。今の帝国政府直轄領ジュライ特区があるんだと思うと身震いがした。



 白亜の街並みは瀟洒で繊細で、とてもじゃないが隣に立つ男の印象からはかけ離れている気がする。

「きれいな街だろ。ヘイムダルやクロスベルみたいに馬鹿でかいわけでもないし、バリアハートみたいな豪華さはないが」

 どこか誇らしげなフードの男に、声もなくこくりと頷く。

「こっちだ」

 手を引かれるままにジュライの街を走る。連れてこられたのは、質素な造りの家だ。

「……孤児院?」

 看板に書かれた文字は経年変化でずいぶん薄く掠れているけれど、なんとか読み取れた。

「ああ」
「……」

 クロウがここで育った、のだろうか?
 首を傾げて看板を見上げていたら、扉が勢いよく開かれた。

「クロウ兄ちゃん!」

 わらわらと子供たちがクロウのまわりを取り囲む。フードを被っていても視点の低い子供からは彼の顔がよく見えるのだろう。

「ようおまえら。元気にやってたか?」

 膝をついて視線を合わせて、子供たち一人一人の名前を呼んで俺にするように髪を撫でていく。一通りの挨拶をすませたころ、子供の一人が俺を指さした。

「クロウ、あの人は?」

 訊ねた子供にクロウは性質の悪い笑みを浮かべて見せる。

「ああ、おまえたちのためにサンタクロースつれてきてやったぜ」
「は……?」

 唐突な紹介に、面食らう。そりゃあ確かにコートの色は朱いけれど。トナカイもいないしプレゼントも持ってない。事前に話を聞いていれば、何か用意してきたのにとクロウを睨めば子供たちにしたように頭を撫でられた。

「まあ入れよ、リィン」

 慣れた様子で扉を開いて、振り返ってそう呼ばれる。

「えっと、じゃあ……おじゃまします」



「クロウ……!」

 部屋の中にいたシスターが、クロウの顔を見て驚いた様子を見せる。子供はともかく彼女はクロウがなにをやったのかを正確に知っているのだろう。

「まったくあなたという人は、心配ばかりかけて」
「悪い」

 申し訳な下げに答えるクロウというのを、初めて見た気がする。

「ほら、顔をちゃんとみせて……まったく、ちゃんと毎食食べてるの? 痩せたんじゃない?」
「食わされてるよ。大丈夫」
「それにしてもあなたが来るだけじゃなく、誰かを連れてくるなんてめずらしいわね」

 シスターの視線が俺に向けられる。柔らかな、温かなそれ。
 会釈すれば笑みが深くなった。

「あなたにはもったいないくらい、いい子ね。初めまして。シスター・マリアといいます」

 俺も名乗ろうと開いた口が、塞がれる。
 クロウの手で。

「まぁ、ずいぶん仲良くさせてもらってるのね、クロウ」
「そうだな」

 口を押えられたまま、視線でクロウに問う。黙っていろ、ということらしい。

「サンタを見つけてつれてきてやったんだ。ガキどもが喜ぶかと思ってな」
「あらあら、それこそあなたがサンタクロースじゃない」

 くすくすとシスターが笑う。

「なにもないところですけど、ゆっくりしていってくださいねサンタさん」

 口をふさがれたまま名せいで返事ができず、会釈だけ返す。



「何の真似だよクロウ!」
「阿呆が。いろいろ無自覚だとは思っていたが今のお前の名前と立場がどういうものかわかってんのか?」
「わかってるさ。それこそ、人のこと言えるのか? クロウ」
「俺の場合は特別なんだよ」
「なんだよ、それ」

 自分だけはよくて俺にだけ節制を求めるなんて。そう思うけれど、実際ここはクロウのホームで俺は部外者だ。しかも街を現在納めている存在から見れば、障害でしかないことも自覚している。

「真摯であることは美徳だろうけどな、時と場合によって使い分けろ」
「お前は柔軟に使い分けすぎだろ」

 そうでなければ、俺を呼びつけるなんて真似できるはずもない。本当に、クロウの考えていることはよくわからない。

「生誕祭は特別なんだよ……」
「そうなのか?」
「そうじゃなきゃ、リスク高いのにお前を呼んだりしねえよ」
「クロウはいつだって無茶しかしないじゃないか」

 あのシスターも、ずいぶんと心配していた。

「……なぁ、クロウは」
「あー、俺はこことは無関係だからな。あの鉄血が俺の弱みをそのまま放置してくれると思うか?」
「思わないな」

 怪物。
 その言葉が何よりも似合うだろう。この目の前の男に心臓を打ち抜かれて、それでも生きている存在。

「俺はこことはなんの関わりもないんだよ」
「それで、いいのか?」
「……本当に、俺はここで育ったとかそういうわけじゃないんだ。昔、慈善事業ってやつでな。何度か子供たちの遊び相手やってやってただけ」

 視線の先で、子供たちがシスターからろうそくを受け取っている。

「それだけなのに、あいつらは妙に懐いてくれたから毎年生誕祭はここで過ごすことにしてたんだ。居心地は悪くないしな。シスターは口うるさいが」
「クロウとサンタさんもろうそくどうぞ」

 手渡されたそれに灯をともして、暖炉の周りにみんなで座る。

「じゃあサンタさんからね」
「……ええと、あの?」

 意味が分からず、首を傾げる。

「この街では生誕祭には家族そろって暖炉を囲んで怖い話をするのが習いなんだよ」
「……怖い、話?」
「そ。精霊を慰めるためにな」

 怖い話と精霊との因果関係が分からず、ますます傾げる角度が深くなる。

「もともと生誕祭ってのは元をたどれば冬至の祭りだ。一年で一番夜が長くて、明日から太陽が勢いを取り戻していく夜だから精霊たちもいろいろナイーブになってるらしい」
「ジュライって精霊信仰が深かったのか」

 初めて聞いたことだ。

「まぁ精霊たちは鉄を嫌うからな。鉄道が引かれてからは、めっきり数も減って精霊を進行している人間も減ったが」
「そうか。それで怖い話をすればいいのか?」
「おう、おまえなら不死の王の話でもロアの話でも、なんでもできるだろ」

 その妙な期待に、苦笑する。

「じゃあ、とある学校の七不思議の話をしようか」






「クロウ兄ちゃん、サンタさん、また来てね」

 わらわらと足元に集まってくる子供たちに、クロウが来た時にしていたように膝をついて一人ひとり頭を撫でてやる。

「それで? これで俺は解放されるのか?」
「せっかくだからもう少し付き合えよ」

 孤児院を後にしてジュライの路地裏を歩く。土地勘が全くないせいで、自分が今どこにいるのかもよくわからない。小さな都市国家の路地裏は、この街に入った時の地下道のように曲がりくねっていて迷路のようだ。クロウがいなければ抜け出すこともできないだろう。諦めてついて歩くしかない。

「夜には花火が上がるんだ」
「へぇ。それも精霊信仰に関係してるのか?」
「いや、そっちは聖者が生まれたときにひときわ明るい星が出てたって話かららしい」

 この、男は。
 それを俺に見せたくて呼びつけたんだろうか。行動の意味の分からなさは前からだったけれど。

「そろそろだな」

 町の人たちも。警備の軍人も。
 そわそわと、クロウが見ている方を見つめている。
 最初に一つ、打ち上げられた花火が中空で大きな火の華を咲かせる。遅れて聞こえてくる、爆発音と火薬の匂い。

「導力魔法の花火じゃないんだ」
「花火っていうのはそういうもんだろ」

 なるほど。これはたしかに見る価値のあるものだろう。呼びつけられて、それに応えてよかったと、そう思ってしまう。
 子供たちにも喜んでもらえたし、本当の花火というものも目にすることができた。
 どうすることが正解なのかはわからないけれど、それでも。

「ありがとう、クロウ」
「礼を言われるようなことはなんもしてねえぞ? 怒られることはやってるが」
「自覚があるならやめろよ」

 素直に告げれば、まぜっかえされる。

「無自覚に人煽ってばっかりのおまえには言われたくねえな」

 笑いながらそういう。
 その緋の双眸が、ひどく近くて――銀色の睫毛が触れそうな、ほど。

「――っ」

 熱が唇を、かすめた。
 キスされたということを頭が理解するよりも、食いつかれるほうが早かった。押しのけようと動いた手が、捉えられる。
 言い返そうと中途半端に開いたままの唇を割って、舌が、咥内を好き勝手に舐めあげていく。
 何故、と問うことも無意味なんだろう。この男にとって。
 散々貪りつくされて、ようやく解放された時にはもう俺は死にそうだった。

「……なに、するんだ……人が」
「みんな花火しか見てねえだろ」

 そういう問題じゃない。公衆の面前で男同士でキスとか、ないだろ。……ない、よな。

「あーだめだ。つらい」
「クロウ?」
「足りねえ」

 訝しめば、返された言葉はひどく簡潔で。けれど、到底受け入れられるものじゃないはずだった。
 この、男は。
 自分の立場を考えろと言った口で、何を言い出すんだと。
 湧き上がってきたのは、怒りと羞恥と。
 同意だった。



「……っ、クロ、ぅ。も、……っ」

 人気のない路地裏の壁に背中を押し付けられ、ベルトを外されたズボンは中途半端にずり下ろされている。
 さっきのキスだけで反応していた自身は、クロウの手淫ではしたなく先走りを零している。腰に溜まって、澱んでいく熱に浮かされて強請るように腰を揺らして。

「すっげぇやらしい顔」
「誰のせい、だと……っ」

 震える声で返して、睨みあげる。

「俺のせいだよな」

 なんでそれを満足げに、笑うんだ。意味が分からない。わかっているのは体を犯す熱と、出したいという生理的欲求だけ。

「いいぜ。生憎潤滑剤なんて気の利いたもん持ってきてねえからな」

 囁かれた言葉に、目を眇める。
 俺が出した体液でその代りをするのかと思うと、どうしようもない羞恥か屈辱か色のわからない感情が走る。

「っ……」

 先端を指先でくじられて、あっけなく遂情してしまう。吐き出した白濁をクロウが尻に塗りこんでいく。
 どうにでもなれという自棄と、けれどそんなどうしようもない俺を見下ろす緋色がやたらと楽しげにいきいきしていることとが。

「……っ、ゃ、あ」

 滑りを助けに入れられた指を締め付けてしまう。

「力抜けって」
「できない、ばか、くろ、ぅ」

 はくはくと息をして、目の前の体にしがみ付く。
 高く上げさせられた足がつりそうで。何もかも、こっちはいっぱいいっぱいなのに。

「しゃあねえな」

 苦笑する気配と、耳に触れた柔らかな感触。弱いところを本気になってるクロウに責め立てられて、俺の体はあっけなく陥落する。
 一本、二本と増やされて慣らされる。広げられた入口を。それでもさらに強引に押し開かれて上げた悲鳴は、クロウの掌の中に消えた。






 ありえないだろ、という呟きが花火の音でかき消される。路地裏とはいえ、外で、なんて。

「大丈夫か?」

 大丈夫なわけないだろう。馬鹿じゃないのか。
 服、は無事だ。汚れたのは俺の中とクロウの掌だけだ。クロウの手で服の乱れを整えられれば、はた目には何もなかったように見えるだろう、大丈夫だ。

「……色気だだもれ」
「そんなものあるわけないだろ」

 無茶な体制のせいで、足も腰も痛い。どうしてくれる。

「あー、なぁもうおまえ俺にさっさと浚われてくれる気ねえか?」
「断る」

 即答すれば、苦笑された。

「俺がお前を捕まえて、返ってきてもらうんだからな」

 だから浚われてやるわけには、いかない。

「それこそ無理だな」
「絶対に諦めないんだからな、俺は」
「はいはい、わかったわかった」
「わかってないだろ、お前は」

 俺がどんな思いで、ずっと。

「俺が逃げる限りお前は追い続けてくるんだろ?」

 どうして、そうやって笑うんだよ、馬鹿。

「地の果てまで追いかけてやるから覚悟しろよ」



「立てるか?」
「誰かさんのせいで無理」
「この甘えたが」
「誰かさんが甘やかしてくれるからな」

 腕を伸ばせば、ひょいと軽々と抱き上げられる。荷物のように肩に担がれて、酷使された腰が痛んだけれど歩いて帰るよりはましかと思い直す。

「そういやあの通信はまた使えるのか?」
「レプリカだから一回きりだ。次はない」
「そっか」

 こんな風なイレギュラーな邂逅は、もうないんだろう。次に会うときは、戦場か。
 そう考えて、それも悪くないと思ってしまうのは多分、この男に相当毒されているんだろうと苦笑した。
pixiv [2013年12月24日]
© 2013 水瀬
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