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「クロウの馬鹿!!」
「おい、リィン!!」
呼び止めようとしたら手を振り払われ、そのままクロウの部屋から勢い良く飛び出し、向かい側の自分の部屋へと入っていってしまった。
クロウは、さてどうするかと頭を悩ませる。
「おーい、リィーン?」
ドアを開けずに呼びかけてみるが、反応はない。
鍵はかかっていないため、開けようと思えば開けられるのだが、そんなことをすればさらにリィンの機嫌は悪くなり、状況は悪くなっていく一方だろう。
(やれやれ……どうすっかね)
原因は恐らく自分だろうっていうのも分かっているのだが、何に対して怒っているのかがわからない以上、謝っても無意味だろう。
しかし、記憶を辿って行っても思い当たらない。
(原因は何だ……?)
そして、ふと思い出した。
確かデート中に美人なお姉さんに見とれて、その後からリィンの様子が変だったような気がした。それに気付いて聞いた時は何でもないと答えたが……。
(あー……嫉妬か)
思い至った理由に、嬉しいような、けれど苛立ちにも似た動揺を覚える。
「確かにあのお姉さんに見とれたけどな、お前気づかなかったか?」
「……」
手強い天照は、まだ天の岩戸に篭ったきりだ。
「あのお姉さんの目の色、お前に似てたんだよ」
だからといって見惚れていい理由にもならないけれど。それでも、珍しい色合いについつい目を奪われたのは、このドアの向こうの存在に対する執着ゆえ、だ。
そう伝えても反応は返ってこない。自分が悪いとはいえ、こうも反応が返ってこないとは。
耳を澄ますと、微かに聞こえてくるすすり泣く声に、俺は焦る。
(何で一人で泣いてんだよ……! 泣くなら俺の前で泣けっての)
ドアを開けようとして、躊躇する。
今ここを開けてあいつの機嫌が更に悪くなったらどうする、と思い至る。が、やはり一人では泣かしてはおけないと、意を決してドアを開ける。
部屋を見渡すが部屋の主は見当たらないが、すぐに居場所は特定でき、俺はベッドの脇に腰を落とす。
「一人で泣かずに、俺に怒りとかぶつけろよ」
ミノムシ状態の布団の上からそっと触れてみる。包まった布団ごとビクリと震える様に募るのは愛おしさと自戒。
元々が人を責めるということをあまりしないリィンだから、俺がちゃんとその度に聞き出すようにしていたつもりなのに。
「お前に泣かれたら、弱いんだよ。どうしたらいいかわからなくなる」
泣く子供には、勝てないと決まっているんだ。ましてそれが惚れ抜いている相手なら、尚更に。
「俺を嫌いになったのなら、許せないとか顔も見たくないとか、そう思うっていうなら俺を殴ってくれればいい。一人で抱え込まずに、話してくれ」
リィンは布団にくるまった状態から動こうともせず、話そうともしない。
「殴らないなら、嫌いになったわけじゃないって決めつけるけど、それで構わないか?」
リィンは布団から顔を出し、俺をじっと見つめている。
「嫌いじゃ…ない。……でも……」
「でも?」
リィンはまた布団の中に潜ってしまった。
俺は出かけたため息を止め、普段はあまり呼ばないリィンの名前を呼ぶ。そうすると、リィンは顔を覗かせてくれる。
この存在が愛おしいと、本当に感じてしまう。
髪を撫でてやるとリィンは嬉しそうにするが、泣いて目が真っ赤になってるのを見ると、胸が痛い。
リィンをそっと抱き締めてやる。ビクリと一瞬震えたが、抵抗されることはなかった。
「目、腫れちまったな、冷やした方がいいか」
「……」
リィンが俺の服をぎゅっと掴んでくるその仕草に、愛しさがこみ上げてくる。
「酷い男だよな、お前の泣き顔見たくないのに、お前が俺のために泣くのは嬉しいって思う」
髪を撫で、目元にキスを落とすとくすぐったいのだろう、身を捩る。ただ、逃げる気はなく、俺の腕に留まってくれている。
「クロウ、は」
泣きすぎたことが明白な声に名を呼ばれて、撫でる手を止める。細い体を抱き上げて膝に座らせ、視線を合わせて先を促した。
「クロウは……女の人がいいのか?」
不安げな目で言われたが、さっき告げたことを忘れたのか、こいつは。と思い、リィンの頭を一発軽く叩く。
「女だとか男だとかどうでもいいんだよ。お前がいい」
軽く叩いた頭を、撫でる。
「お前以外、いらないんだ」
「でも……」
何をそんなに不安がるのか。
どうすれば安心してあげられるのか──。
今は不安げなリィンを抱き締めることに専念するかと思い、抱き締める力を込め、キスを落とした。
pixiv [2014年1月26日]
© 2014 唯菜
© 2014 唯菜
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