×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
An Evening Breeze
8月の特別実習が明日に控えていたその日、俺は旧校舎の前である人物に通信をかけた。
その相手はすぐに出てくれた。
『どうした、リィン?』
「明日から特別実習でしばらく離れてしまうから、そのさ……」
『クク、どうした?』
「その……デート、しないか?」
そう言った後、恥ずかしくなって、俯いてしまう。きっと顔真っ赤なんだろうな。通信の相手もそれがわかっていそうだ。
『今お前、どこにいるんだ?』
「旧校舎の前」
『分かった、すぐに行く』
通信が切れて、その人物を待つ。
待っている間に顔が真っ赤なのどうにかしたい。──したかったんだけど、近くに居たのか待ち人はすぐにやって来て、顔真っ赤なままで、さらに恥ずかしくなった。
「クク、何恥ずかしがってんだよ」
そう言いながら笑うと、その人物は──クロウは、俺を抱きしめた。
こうやって抱きしめられると、安心するんだ。
「しかし珍しいな? お前のほうからデートしないかっていうのは」
「だってさ……明日から特別実習だろう? 別々だし、それに──ジュライ、行くんだろ?」
「──あぁ、そうだな」
「心配、なんだ……」
「大丈夫さ。心配すんなって」
クロウを更に俺を強く抱きしめた。
「でも、ありがとな」
「うん」
「それじゃ、早速デートでもすっか? でもなんで旧校舎なんだ? もうちょいこう、な?」
苦笑しながら言われた。
「明日から実習じゃないか……その準備もあるし、トリスタでデートするわけにもいかないし、そうなると、旧校舎しか浮かばなくて……」
「クク、まぁ、そうだがな?」
旧校舎の鍵を開け、中に入る。
「お前と二人でここに来るのもあの時以来か」
「エリザを助けた時か? あの時は助かったよ、ありがとうクロウ」
「礼言われるようなことしてねえけど、あれも『試し』だったんだろうな」
試し。と言われても、俺にはよくわからなくて、首傾け、クロウを見つめる。
「騎神を起動するための試練、かな……」
「騎神……?」
そう言われて思い浮かぶのは、クロウが乗って操っていたあの蒼い騎神──確かオルディーネと呼んでいたはず。
「騎神って、クロウが乗ってたあれのことだろう?」
「ああ、灰の騎神がここにあるって聞いて、な」
「灰の…騎神……?」
「お前の騎神だ」
クロウが俺の方を目を細めて見て、告げる。
それに俺は驚いてしまう。
「……俺の?」
「あの時の仕掛けはお前に反応していた……というより、お前を誘い出すために彼女をここへ誘い出したんだろうな」
「え……。……誰がそんなことを……。エリゼが無事だったからよかったけど、もし…もし、あの時、エリゼに何かあったら……」
あの時のことを思い出して、体を震わせた。
そんな俺をクロウは抱き寄せ、強く抱きしめてくれた。
「誰が…誰がそんなことを……」
「……魔女本人か、使い魔だろうな」
「魔女……使い魔……」
誰かは分からないけど、俺を誘い出すのにエリゼを利用したのなら、許すことはできない。
「大丈夫、大丈夫だ」
「……うん」
クロウは俺を安心させるためなのか、何度もキスを落としてくれる。俺はクロウの服をきつく握りしめた。
「旧校舎行くときは俺を必ず誘え。守ってやっから」
「うん」
「さて、そろそろデートすっか? 遅くなったらいけないだろう?」
俺は頷く。離れようとしたらクロウが手を絡めて強く握りしめてきて、一瞬慌てたけど、二人きりだからと、俺もクロウの手を強く握り返した。
昇降機がある部屋まで移動したのはいいけど、この先のことを考えてなかった。
ふと昇降機の端末を見ると、新しい階層ができていることに気付いた。
「……クロウ、新しい階層できてる」
「起動者二人……と言っても、お前はまだ起動者候補だが、俺達二人に反応して構造が変わった可能性があるな……行くか?」
「……二人だけで大丈夫かな」
「俺を誰だと思ってる?」
少し考え、大丈夫かと思い、新たにできた階層に降りた。
第6層に着き、クロウは本来の武器である双刃剣を取り出した。
「ダブルセイバーで行くのか?」
「二人だからいいだろう? こっちのほうが本気出せるしな。お前守るならこっちのほうがいいだろう」
クロウは俺を抱き寄せ、唇にキスをしてきた。
お返しに、俺からもキスを送る。
「それじゃ、行くか。さすがに最奥まで行っちまったら不審がられちまうだろうから、その手前まで、だな」
「そうだな」
クロウは双刃剣を構える。
それを見て、やっぱりクロウには双刃剣が似合うなって思ったんだ。
それから、俺達二人は難なく敵を殲滅していき、最奥の手前までやってきた。
途中でクロウが抱き着いてきたり、キスしてきたりで大変だったけど。
でも普段はこうやって二人で行動することはあっても、関係をある程度隠している分、気を抜くことはできないけど、ここだと今は誰いないし、見られていない安心感もあり、俺も思う存分に楽しめたかもしれない。
「さすがに骨が折れたが……結構楽しめたな」
「うん。でも俺、ずっとクロウに守られてた気がするけど」
「ばぁか。恋人守るのは当然だろう?」
「それなら、俺だって……」
「お前は、まず先に、自分の保身のことを考えろよ?」
「……はい」
肩を落とすと、苦笑された。
抱き寄せられて、お互いの唇を重ねた。
サイト掲載日 [2014年4月20日]
© 2014 唯菜
© 2014 唯菜
| HOME |